美人な彼 



「将臣くん、ナイフ持って来てたでしょ。ちょっと貸して」
「ああ。何だ?荷解きにでも使うのか?」

ナイフを渡そうとしたら、ばさり、とのぞみがいきなりコートを脱ぎだしたので将臣が驚く。
のぞみはそのまま自分の髪を無造作に根元から引っつかむ。

「のぞみ、何してんだよ」
「何って、髪、切るんだよ」
事も無げにのぞみが言い放つ。
「おいっ!止めろ、何考えてんだ」
「いつまでもこんな髪型してるから無駄に女の子に間違えられるんだ。だから切る」

添乗員にまで女性に間違えられたのがかなり気に障ったらしい。
しかし眉間に皺を寄せて決意に満ちた表情は本人の決意とは裏腹に見ほれるほど美しい。

(いや、髪形だけの問題じゃねえだろ。…こいつの身長こっちだとちょうどいい感じなんだよな。ホテルにいる男共の視線に気づかねぇのか?)
将臣が思わずしみじみとのぞみの顔を眺めている間にのぞみがナイフを髪に当てて今にも髪を切ろうとしていた。

「おいっ!待て待て待てっ!譲子が泣くだろうが!旅行の初っ端からあいつを困らせるな!」
「でも」
「でもじゃないっ!あいつが困るようなことはしないって言ってただろうがっ!守れっつの」

ぶーとふくれながらも、のぞみはナイフをしぶしぶ将臣に返した。

「あーあ。やんなっちゃうなあ。男として見てもらおうって思ってもこの体たらくだ」
「そう言うな。譲子はそういうお前でいいんだそうだから問題ねぇだろ?」

ほっとしながら将臣はナイフを速攻でしまい込む。

「あれ、ほんとに立ち直ってる。つまんないの」
「譲子大先生にお前の爆弾発言を丁寧に翻訳して頂きましたっつの。まったく勘弁しろよな。あいつのノロケはお前の豹変よりキツイぜ」
げんなり、といった様子の将臣にくすくすとのぞみが笑う。

「あーあ。やってらんねえな」
「まあ、そういわずに付き合ってよ。まだまだ先は長いんだし?どうなるかなんて分からないんだから」
片眉をひょい、と悪戯っぽく上げてのぞみが将臣の顔を見る。
将臣がぐしゃぐしゃとのぞみの頭をかき混ぜる。

「わーやめてよ。櫛が通らなくなるだろ」
「うるせえ!さっきまで切るとか騒いでた奴が何ぬかしてんだ。まってろ、俺が男らしくアフロにしてやる!」
「げっ、それだけは勘弁してよ」

けらけらと。
いつもどおりの2人がそこにはいた。





イラスト & 文 sava 2007.02.01日記 美人な彼 加筆修正