部屋までの長い距離 



「疲れて無いなら、電車で行こうか。」

 自称添乗員はそう言って、一行をフランクフルト中央駅まで引率した。
 そこから歩くこと数分。
 目指すホテルがあった。
「ドイツはホテルに星をつけたりしないけど、一応三ツ星クラスだよ。どう?
 春日さんが新作発表を行ったのは、ここじゃなくて、同系列のミュンヘンにあるホテルだけど。」
「うわぁ。綺麗。」
「ヨーロピアンスタイルのホテルだからね。結構いいでしょ?駅が近くて交通の便もいい。」
 ほら、と促され、メリディアンパークホテルへと入った。
「パスポート、かしてもらえる?」
「あ、はい。」
 全員のパスポートと、のぞむ母からもらったホテルのチケットを渡す。
 添乗員はそれらをフロントに差し出した。
「ホテルでも、パスポートがいるんだね。」
「不思議だね。」
 言いながら見ていると、彼女がクレジットカードを渡していた。
「あれ?ホテルって、ただじゃないの?」
「そのはずだけど…」
 戻ってきた彼女に聞けば、からからと笑う。
「ああ、アレは身元保証のようなものよ。クレジットカードを提示するか、現金を預けるか。
ホテルの備品なんかを壊したりしたときのための、保証金みたいなもんね。」
「そうなんですか…」
 添乗員に促され、3のフロアへエレベーターで向かう。
「あ、ドイツは一階が地上階、2階が1階になるから、気をつけてね。」
「はい。」



 3フロアにつくと、添乗員はのぞみ、将の二人に部屋のカードキーを渡した。
「じゃ、その三人が、この部屋で、そっちの青い子たちがそこの二人部屋。
のぞむくんは、私と一緒でいいかしら。」
「…は!?」
「何を言ってるんですかっ!!」
 のぞみと一緒といわれて、譲子が叫ぶ。
 また、のぞむと添乗員が同じといわれて、譲が青くなる。
 言動はどうであれ、見かけは知的な美人でスタイルも良い。
 のぞむが過去に付き合ってきた女性の条件に合致するのだ。
「何って…いくら兄や幼馴染でも、お年頃の女の子が男の子と一緒の部屋じゃ、嫌でしょう?」
 私は平気だけど。
 さらりという添乗員に、一同固まった後、のぞみが引き攣った顔で、低い声をだした。
「……………………僕、男ですが。」
「なぁに言ってるのよ。」
 本気にしていないのか笑って言う添乗員に、のぞみが落ち込む。
「ま、私なら平気だし?春日さんの息子さんなら、私と同室でも問題ないでしょ?」
「そういう問題じゃないだろ。」
 のぞむが呆れを通り越して疲れたように言う。
「あら、どういう問題?」

『あなたがおいたしたっていう問題よ。』

 突然、低くてこもった声が響いた。
「臣君!?」
 のぞみの声に臣を見れば、携帯電話をスピーカーにして差し出していた。

『………おいたはするなと言ったはずよね。』
「あ、ははは。」
『しない、とも言ったよね。』
「いやん、ちょっと美人さんすぎたから、間違っちゃっただけじゃない♪」
 淡々と、静かなけれど怒気のこもった声に、添乗員のみならず、譲たちまで冷や汗をかく。
『……………こっちに来た時、覚悟しなさい。』
「ごめんなさい!!」
 電話なのに即座に土下座する添乗員に、皆が目を丸くする。
『つぎ、またやったら…………本気で怒るよ?』
「はいぃぃ!!」

『あ、臣くん、その調子で監視しててね。逐一つないでくれて構わないから。』
「はい。ありがとうございました。」

 電話が切れると添乗員がはぁ〜っと長いため息をついた。
「うう、仕方ないわね。じゃ、春日ズでそのお部屋。将臣ズでそっちの部屋。
女の子たちはここで、私と一緒で。」
「最初からそうやってりゃいいだろうが。」
 臣が呆れて言えば、添乗員が上目遣いで言った。
「だぁってぇ。こんな美人さんがいたら、遊びたくなるじゃない?あの子より、よっぽど美人なんだもん♪」
「だからってな。ってか、あんたあの人にやたら怯えてたな。」
「ああ…ちょっと立て続けで臨界点いっちゃったみたいな声だったから。
たいていは叱っても、そう怒ったりしないんだけど…マジギレしたあの子は怖いというよりヤバイから。」
 ぶるりと身体を震わせて、添乗員が言う。
「さて、とりあえず荷物を置いて、少し休んだら駅でも見てくる?時間が遅いから、観光はできないけど。」
「そうですね。」
 それぞれにホテルの部屋に入ると、将臣達はベットに倒れこむように寝転んで、深いため息をついた。
「…なんで、ホテルの部屋に入るだけなのに、こんなに疲れんだよ…」
「のぞみの言うとおり、あの人に来てもらったほうがいいのか…?」
 体力自慢の二人とて、精神的な疲れには勝てなかったようだ。





文  総 2007.01.31日記 部屋までの長い距離 加筆修正