大人のような 子供のような
のぞみを女呼ばわりしたことがばれて、先ほどまで懇々と電話で怒られていた添乗員だが、堪えた様子も見せずに笑顔で言った。
「さてさて、そろそろ出かけましょうか。」
「はぁ…。」
どことなく疲れた声で、譲子が呟く。
それを見て、添乗員がまたくすくすと笑った。
「ところで、譲子ちゃん。彼氏、自覚無いわけ?」
「え?」
彼氏といわれて、譲子が赤くなりながらも首を傾げる。
「自分が男っていう。」
「なっ!あるに決まってます!!」
譲子が真っ赤になって怒れば、添乗員がひらひらと手を振った。
「そうじゃなくて…男っぽいっていう。」
「え?」
譲子がきょとんとするので、添乗員は苦笑した。
「えって、ひどいわね。自分の彼氏に向かって。」
「あ、いや、その。」
彼氏といわれたことや、男っぽいを否定してしまったことなど、様々なことにうろたえる譲子をよそに、くすりと笑う添乗員。
「ま、将臣君と並んでるの見た時はカップルに見えなくもなかったけどね。
隣に緑色の可愛い子がいると、男にしか見えないのよ、彼氏。」
「あの…」
「臣くんが電話した辺りで、分からなかったかなぁ。
彼は、私がわかってて遊んでると気付いたから、あの子に電話したのに。」
「それは…」
「彼氏、自分や貴方達が思ってるより、ずっと男だよ。
ま、私達からしてみれば、男の子だから、可愛いって思っちゃうんだけどね。」
つい、構いたくなっちゃう。
ウィンクしてみせる添乗員に、譲子は苦笑した。
「って訳だから、フォローお願いね♪」
「なんですか、それは。」
「あら、私に土下座されるより、可愛い彼女に大好きって言われたほうが効くでしょ?」
「…からかうのをやめる気はないんですか。」
譲子が呆れて言えば、添乗員はにこりと笑った。
「あの子に怒られたからねぇ。からかうのも遊ぶのもやめておくけど。
だからといって可愛がるのをやめる気はないのv」
楽しそうに微笑む添乗員に、譲子もつられて笑う。
「一応気をつけるけどね。」
「ぜひ、そうしてください。」
言いながら、二人が立ち上がる。
「譲ちゃん?そろそろ行くよ。」
添乗員がトイレに入ったままの譲を呼ぶが、返事が無い。
「譲?どうかしたのか?」
「譲子…どうしよう…」
カチャリとドアが開いて譲が出てくる。
どこか青い顔をしている譲を、譲子は不思議そうに見た。
「?」
「きちゃった…。」
譲が握った手を口元にあてて呟いた。
「え?」
「あらま。持って来てないの?」
譲子は意味が分からなくてとまどったが、即座に理解したらしい添乗員の言葉に、譲はこくりと頷いた。
「…予定だと、まだ2週間近く先だったんです…」
そこまで聞いてようやく譲子は意味が分かった。
「ああ、そんな顔しない。大丈夫。旅先だと、よくあることだから。」
不安そうに青ざめる譲を、添乗員が優しい声でなだめる。
「痛みは?」
「それは大丈夫です。もともと痛みは少ないたちなので…」
「そう。じゃぁサニタリー用品だけなのね。来る時に駅の地下道で薬局を見かけたから、そこで買いましょう。
それまではひとまず…私の予備だけど、これを使って。」
てきぱきと荷物の中からとりだす添乗員に、譲子は感心した。
まだどこか青い顔の譲の頭をなでて、添乗員が言う。
「1回ずれるくらい、良くあることだから。無意識に気を張ってたんじゃない?
子供達だけで海外なんて、初めてでしょ?」
こくりと譲が頷く。
「大丈夫、大丈夫。ほら、用意して出かけよ?彼らも待ってるだろうから。」
「はい。」
再び洗面所に戻る譲を待ちながら、譲子は添乗員を見ていた。
のぞみをからかっていたときとは、まるで違う。
どんなに大人びていても、自分達はまだ子供で。
子供のようにはしゃいでいても、彼女は大人なんだ…と譲子は思った。
「お・ま・た・せ〜v さ、いきましょうか。」
「何やってたんだよ。やけに遅くなかったか?」
「あら、女のしたくは遅いと決まってるのよ?いい男なら、文句を言わずに待ちなさい。」
しれっと言う添乗員に、男達は苦笑した。
「あ、そうそうのぞみくん。」
「何ですか?」
「さっきはからかって悪かったわね。」
にこりと言われて、のぞみはきょとんとした後、苦笑いした。
「いえ…。」
「ま、遊んじゃったのは悪かったけど。でもアレくらいさらっとかわせなきゃ、いい男にはなれないぞ☆」
添乗員に指をさされてにこりと微笑まれ、のぞみが押し黙る。
「はいはい、そんな顔しない。お詫びにこっちにいる間、おねーさんがおいしいお酒をおごったげるから。」
「おいおい、俺らは高校生だぞ?」
「郷に入らば、郷に従え。ドイツは16歳から飲酒OKよん♪まさか、飲めないなんていわないわよね。」
にやりと笑う添乗員に、将臣達は嬉しそうだ。
「せっかくドイツに来たんだから、ビールとワインは基本でしょ!」
ほら、行くわよ、と譲の手をとって添乗員が歩き始めた。
譲の隣にのぞむが並ぶのを見て、臣が慌てて後を追う。
今は添乗員がいて、片側しかあいていな譲の隣を取り合う二人。
すばやいバトルを繰り広げながら歩く二人を、添乗員は時々からかうように言葉をかけながら、面白そうに笑って見ている。
譲子はのぞみの隣に行くと、苦笑しながら言った。
「なんだか、叔母様が彼女を添乗員にしたの、分かる気がします。」
「え?」
譲子の言葉に、のぞみも将も不思議そうにした。
「彼女なら、のぞむ兄さんのセクハラにも、臣兄さんとのいつものバトルにも動じることなく対応できそうですから。」
ちょっと、遊びすぎみたいですけど。
くすくすと譲子が笑う。
「高校生が!なんてことを言わず、ニコニコと受け流して…楽しんでくれそうですよ。」
「それはそうだが。」
「それに、あれで結構頼りになりますよ。」
「そうなのか?」
部屋にいる間になにかあったのか?と将が首をひねる。
隣ののぞみの手をとって、譲子が笑った。
「先輩。」
「譲子ちゃん?」
「彼女からフォローを頼まれました。つい、可愛がってしまうからよろしく、だそうです。」
のぞみが憮然とすれば、譲子がするりと腕をくんだ。
「ゆ、譲子ちゃん?」
「譲子?」
のぞみと将が驚いて譲子を見る。
「こうしてると、先輩は男にしか見えないそうですよ。」
にこりと笑う譲子に、のぞみも将もあっけにとられた。
「あー、まぁ確かにな。」
「ええっ?そうなの!?」
将にまで言われて、のぞみが驚く。
「ほら、行くぜ。だいぶ距離がひらいちまった。」
言いながら、将が譲子の手をとる。
「なんで将臣くんまで手をつないでるのさ。」
「るっせーよ。当分は離してやらねーっての。」
3人は笑いながら、前を行く友人達の後を追った。
written by sou
文 総
2007.02.01日記 大人のような 子供のような 他 加筆修正