2人の望



「…何でお前と同室なんだよ」
「仕方ないじゃない。これが一応順当な組み合わせなんだから」
「くそっ。譲ちゃんにおやすみのキスもできなかった」
「やーい。拗ねてる」
「明日は朝イチで何が何でもキスしに行く!」
「…うーん、譲ちゃん達『お姉さん』と同じ部屋だからそれは難しいんじゃないかなあ」
「うるさい!もう寝るぞ!」
「え、もう?少し話でもしようよ」
「お前と話す事はない」

ぼす、と枕に突っ伏したままののぞむの頭をのぞみがつつく。

「くく、そうやって拗ねたら昔みたいだね」

「…お前、浮かれてないか?」
「分かる?」
「珍しいからな。お前から俺にちょっかいかけるなんて」

大抵一方的にのぞむがのぞみをからかうので。

「うん…だって、ずっと皆と一緒にいられるから」
「・・・」
「子供の時に戻ったみたいで、わくわくしてる」
「・・・」
「のぞむ君も、そうなんじゃないの?」

一人っ子で長男で。
わがままで、淋しがり屋で。
いつも、隣の仲のよい兄妹が羨ましくて。

「…うるさい」

「…そうやって、素直じゃないのも…昔からだね」
「うるさい!もう寝るって言ってんだろ!おい、ここで寝る気か!?お前のベッドは向こうだって…おい!」

すー

「寝ちまいやがった、か」

のぞむは、すやすやと寝息を立てているのぞみにこつんと軽くげんこつを当てる。

「…たく、こいつ、勝手に言いたいことだけ言って寝逃げすんの昔からだよな」

のぞみの体温であたたまったベッドがのぞむの眠気を誘う。

「くそ…誰が悲しくて…野郎なんかと…いっしょ・・に…」

ことん、と音もなく

2人の望は眠りに落ちた。






written by sava





 最強のお姉さん



「そういえば、お姉さんと春日の伯母様って、どういうお知り合いなんですか?」
 眠る準備を整えて、ベッドの上で譲が言う。

 3人部屋のその部屋はちょっと変わったベッドの配置だった。
 入ってすぐに一つ、隣に一つ。その足元のような位置の壁際にもう一つ。
 二人部屋にベッドを足したからだろう、とお姉さんが言う。
 一番入り口に近いところをお姉さんが使うと申し立て、その隣を譲、壁際を譲子が使うことになった。

 譲子も興味をもったのか、譲のベッドに腰掛けて、興味津々で見ている。
「ん?ああ。知り合いの紹介でね。彼女の仕事を手伝ったことがあるのよ。」
「仕事を?」
「そ。臨時のお針子さんとしてね。イベントが早まったとかで、お針子さんが足りなくて、急遽お手伝い。」
「そうなんですか。」
「えっと…お姉さんって、服飾のお仕事をしてるんですか?」
 譲子が頷いて、譲が不思議そうに見た。
「ん?違うよ。ただ、学生の時からいろんな服を自分で縫っていたから、裁縫が得意なだけ。」
 お姉さんが笑って言う。譲子はすごいですねと素直に感心したが、譲は驚いて目を瞠った。

 春日の伯母は、普段はあの通りだが、仕事には厳しい。
 デザイナーだけあって、決して妥協などしない。
 イベント発表というからには、新作だろう。
 デザイナーの評価を左右する作品。
 それを作る人が、いくら上手だからといって、素人を雇うなど普通ならありえない。
 ほんの一針ずれるだけで、服のラインが違ってくるからだ。

 いったいどういう関係の人なのか。

 譲は余計に分からなくなって混乱した。
 あの伯母に気に入られる腕の持ち主なら、どこへ出てもひけを取らないはずだ。
 それを読み取ったかのように、お姉さんは譲にウィンクした。
「知り合いにあげた、私が作った服を見たらしくて、お手伝いを頼まれたのよ。」
「そうですか。」
 今度は譲も素直に頷いた。

 それがどんな服かとは、あえて言わないが。





 そのあとも、きゃあきゃあとおしゃべりをする二人をみて、元気ねぇ、とお姉さんが言った。

 時差8時間
 こちらの時間で10時くらいということは、日本時間で明け方の6時。
 飛行機で多少は眠ったとはいえ、ほぼ徹夜だ。

 くすりと笑いながら、お姉さんがバスルームへと向かう。
 ついでにドアのセカンドキーの具合を確認して、もどってきたら二人は仲良く夢の中。
「あらまぁ。可愛いこと。」
 同じベッドで寄り添って眠る二人を微笑んで見た後、隣の部屋−春日の二人が眠る部屋を見て、にやりと笑った。
 取り出したのは、ホテルの部屋のカードキー。
 一人一枚で渡される部屋のカードを、部屋ごとに一枚ずつ渡して予備は自分が管理していたのだ。

 部屋を出て、再び戻ってきた時は、とてつもなくご機嫌な笑顔。
 もしも二人が起きていたならば、間違いなく何かを感じ取って引き攣っただろう。

「さてさて。明日が楽しみだわv」

 再びドアの鍵を確認して、念のためにドアの前にゴミバコを置く。
 さらにベッドサイドのテーブルに、見えるように現金だけを入れた財布を置く。
 セキュリティはしっかりしてそうだし、窓もほとんど開かないし、4階だからまず大丈夫だと思うけれど、泥棒が入った時の対策だ。
 現金が入った財布が見つかれば、素直にそれだけとって帰るだろう。
 パスポートを取られるよりよほど良い。
 人が入ってきたら自分が気付かないはずはないと思うが、女の子を預かっているのだから、用心するにこしたことはない。

 万が一など、あってはならないのだ。

 部屋を見渡して確認すると、譲子が使う予定だったベッドから上掛けを運んで二人にかけた。
 布団が足りなくて丸まっていた二人が伸びていくのを見て小さく笑う。
 自分もベッドに入ると、ふと思い出したように起き上がり、デジカメを取り出す。
 パシャパシャと何度もシャッターを切ると、満足そうに頷いて、ようやく眠りについた。

 明日は何をして遊ぼうかと思いながら。





written by sou



イラスト sava 文 sava&総 
2007.02.02-03日記 二人の望 最強のお姉さん 加筆修正