意外な席順
「意外」
「何が?」
「臣くんが、譲ちゃんの隣をあっさりと渡すなんて。」
のぞみが不思議そうに臣を見た。
飛行機の席は窓際が2席通路を挟んで4席という並びで、自然二人と4人になる。
窓側に譲が座り、その隣をのぞむ。通路を挟んで臣、その隣にのぞみ、さらに反対の窓側から譲子、将という珍しい席順になった。
「あ?ああ。まあ譲が眠そうだったからな。窓際のほうがいいだろ?」
「そうだけど…でも、のぞむくんが隣だよ。」
いいの?とのぞみが言えば、臣がくつりと笑った。
「あいつは、お前よりセクハラだけど、へたれで我慢強いからな。」
「は?」
のぞみが目をまん丸にして臣を見る。
「眠ってる譲に、何もできやしねぇよ。せいぜい寝顔を観察するくらいだろ。
起きてる時は頬にキスくらいはするだろうがな。」
くすくすと臣が笑う。
「のぞむくんがぁ?」
首をひねるのぞみに、臣は笑いながら言った。
「あいつは人前ではやたらと見せ付けるけど、二人っきりだとそうでもないんだよ。
まして眠ってる譲に何かするほど餓えてもいなければ、するような度胸もない。」
臣の言葉に、のぞみが唖然とする。
「本人いわく、眠ってると譲の可愛い反応が見られないから、らしいが。」
「あ〜、それならすっごく納得できるよ。」
のぞみが頷けばにやりと臣が笑う。
「たとえホテルが同室になったとしても、かけてもいいぞ、ハネムーンベビーはありえない。
せいぜい、正真正銘のままごと夫婦をするだけだ。」
「うそ…」
信じられない、とのぞみが言う。
「のぞむは、お前ほど切羽詰ってもいなければ、お前みたいに手ごわいライバルもいないからな。あれで余裕があるんだよ。」
続けられた言葉に、のぞみが驚いた後、憮然とした。
「…そこまで分かってて、どうして譲ちゃんとのぞむくんの邪魔をするのさ。」
「それはそれ、これはこれ。シスコンの兄から、溺愛する妹を掻っ攫おうってんだ。それ相応のもんは乗り越えてもらうさ。」
「シスコンって…自分で言う?」
「いう。ついでにブラコンだ。」
「は?」
少しだけだがな、という臣に、のぞみは疑問符しか出ない。
「あんな風に可愛くない弟は、いじりたおしくなるだろう?」
にっと笑うその顔は、『兄』のもので。
のぞみは参りました、と両手を挙げた。
「はぁ…。臣くんって、本当にお兄ちゃんなんだね。」
「おうよ。なんだったら、お前の兄もやってやろうか?」
臣ががしがしとのぞみの頭を撫でれば、のぞみが苦笑する。
「ん〜、いいよ、そっちは間に合ってるから。」
小さくわらって、こっそりとのぞみが指差したのは、もちろん自分の幼馴染。
「あんまり将をいじめんなよ、あいつは慣れていないんだ。」
「兄弟は、いじりたくなるものなんでしょ?」
フォローよろしくね、といわれて、臣は苦笑しかでなかった。
written by sou
機内風景・有川兄妹(東)
「兄さん?どうしたんだよ。さっきからピリピリしてるみたいだけど…」
飛行機に乗ってからずっとイライラと落ち着かない様子の将臣を心配して譲子が聞く。
「ああ?お前は平気なのか?のぞみがあんな事言い出したっていうのに」
「あんな事…、あ、ああ、あれ、ね…」
譲子が苦笑する。その平然とした態度に将臣が、おや、という顔をする。
「お前…平気だな。何でだ?身の危険を感じないのか?」
「身の危険って…。嫌だな、まさか兄さん本気で先輩が何かするとでも思ってるの?」
「それは…いや、でもあいつ前科が色々とあるじゃねえか。兄としてはやっぱ心配だぞ」
「前科って…ぷ。それなら私もおあいこじゃないか。私だってクリスマスに…ほら、ええと、ね?」
ぽ、と少し赤くなって譲子がもごもごと言う。
(そういやクリスマスパーティの夜、譲子がのぞみの髪をひっつかんでキスしてたな)
「だからってあの発言はねぇだろ。あれじゃ事前承諾とるようなもんじゃねえか」
「それは違うよ」
きっぱりと譲子が言う。
「どういう事だ?」
「宣言に聞こえた。…私には」
「するって宣言だろ?」
「莫迦っ。違うよ、その逆!」
かあっ、と赤くなって譲子が否定する。
「い、今から言う事聞いて、笑うなよ兄さん。あ、あの、ね…私には、先輩がちゃんと私の事考えてるよ、って言ってくれたように聞こえたんだ。
親の思惑とか全然関係なくただ私と一緒にいたいから一緒に旅行に行くんだよ、って。
そ、それと、そういう…事も、待つよ、って。私の気持ちを一番に考えるっていう風に聞こえたんだけど」
将臣が驚いて譲子の顔をまじまじと見る。
譲子は自分の言った言葉に恥ずかしくなったのか真っ赤な顔で急に早口になる。
「だ、だから心配する事ないよ。大丈夫だから。さ、もう寝ようっと、おやすみなさい!」
そう言うと譲子は眼鏡を外して毛布を引っかぶった。
将臣はしばらく呆然と毛布に隠れたみの虫状態の譲子を眺めていたが、ふうとため息をついて反対側の座席に目をやった。
そこではのぞみが楽しげに隣の席の臣と何事か話をしていた。
気負う事もなく、気取る事もなく。将臣がいつも見慣れたゆったりとした表情で笑っている。
(こいつら、ちゃんと通じあってんだな…)
羨望に近い感情で自分を挟んだ左右の2人を見比べる。
浮かんだ感情が嫉妬ではないのが、不思議なくらい嬉しかった。
(まあ、せいぜい邪魔はするかな。そういうのも楽しそうだしな)
くすり、と将臣の口元に浮かんだ笑みは兄としての微笑みだった。
written by sava
機内風景・臣&望
「お、将のやつ立ち直ったようだな。意外と早かったな」
「あれ、ほんとだ…。あ、譲子ちゃん寝ちゃってるね」
譲子は照れ隠しのつもりが本当に寝てしまったらしく
将の肩によりかかってすうすうと穏やかに寝息を立てているようだった。
「いいなあ」
「ん?俺の肩でよければ貸すぞ?」
「あはは。分かってて言うんだから…臣くんてばやっぱりあのぞむ君の幼馴染だよね」
「お陰様でな。朱に交われば赤くなるってな」
臣の言葉に、くす、とのぞみが笑う。
その穏やかな笑顔に臣もつられて笑う。
「…お前とのぞむが逆だたらどうだったのかな」
「さあ?それでもやっぱりボクの親友は将臣くんで、臣くんの親友はのぞむ君なんじゃないかな」
それは変わらないと思うけど?
そう言うのぞみの言葉に臣が目を細めて、のぞみの頭を撫でる。
「…そうだな」
そして臣は己の幼馴染へと目を転じる。
のぞむもどうやら譲と一緒に眠ってしまったようだ。
「ああして寝てればかわいいんだがな、あいつも」
「う、かわいいのぞむ君なんて怖いよ」
「それもそうだな」
くすくす、と笑いあう。
どんなに似ていても、どんなに近い関係でも
選んで、選ばれて、こうして一緒にいるのだと。
そう思った。
written by sava
CHARM KISS
「譲ちゃん、疲れた?」
「え?あ、そういうわけでは…」
「眠っていいよ。まだ先は長いんだから。」
ちゅ、とのぞむにキスされ譲がほんのりと赤くなる。
のぞむ母の爆弾発言に、一番動揺したのは譲だろう。
そして、いっそ子供ができてしまえばいいと思ってしまったのも、譲だけだろう。
そうすればきっと、のぞむは自分の隣にいてくれるから。
わずかとはいえ、そんな考えが頭を横切って、譲は首を振った。
「譲ちゃんは、子供好き?」
見透かされたように囁かれて、譲が固まる。
「え…え。」
子供は嫌いじゃないからそう言えば、のぞむが笑った。
「譲ちゃんの子供なら、俺も好きになると思うけど。」
「けど…?」
譲がそっと伺うようにそちらに視線を向ければ、のぞむが穏やかに微笑んでいた。
「まだ、君をとられたくないから。」
そういって、また額にキスをした。
「もう少し、君を独占させてね。」
にっこりと微笑んだのぞむがキスをしたのは、左手の薬指。
好きだよ
あの時、そう言ってくれたのと同じように口付けられる。
ああ、この人が好きだ。
「先輩。」
「ん?」
「…お休みなさい。」
伝えようとした言葉を飲み込んで、譲が微笑んだ。
まだ、怖いから。
もう少しだけ、この言葉を封じさせて。
そう思いながら目を閉じる。
そっと瞼に唇が落ちた。
夢の中で、待っているよと、優しい声が響いた。
隣で眠りに落ちた愛しい少女。
彼女の不安を拭い去ることはできないけれど。
ずっと隣にいるから。
そう思いながら、閉じた瞼にキスをした。
目を覚ますまで
心を満たすまで
何度だって君にキスをしよう。
俺のキスで目覚めた君は、俺の隣で笑ってくれるだろう?
written by sou
そのころ…
「ねぇ、見た?20のAB席!」
「見た見た!美男美女のカップルでしょ!
「それを言うなら、CDとGHもよ。」
「あ、GHは兄弟みたいよ。兄さんって言っていたもの。」
「へー、似てないわよね。」
「Bの男の子とDの女の子は似ているけど。」
「Cの男の子とGの男の子なんて、そっくりよ。思わず見比べちゃったもの。」
「そうね…って、そうじゃなくて!ABの席の子
眠ってる彼女の瞼にそっとキスしてたのv」
「えー!?」
「それがまた様になってて!いいなぁ、あんな彼氏。」
東西の名物一家は、客室乗務員の間で大層噂になっていた。
written by sou
イラスト sava 文 sava & 総
2007.01.29-30日記 意外な席順 機内風景 加筆修正
charm kiss 5/20書き下ろし