楽しい添乗員
「ふう。やっと着いた。」
「フライト12時間はきつい。」
「メシはまずいし。」
「そうでもないよ。」
フランクフルト国際空港についた将臣達は、伸びをしつつぼやいた。
実際の食事は機内食にしては美味しいものだったのだが、何しろ譲と譲子の味になれている将臣たち。
食べられないことはない程度にしか感じない。
「これからどうすればいいの?」
譲が言えば、のぞむが手帳を開いていった。
「税関を抜けたところに、迎えがきてるはずなんだが。」
「むかえ?」
「ああ。母さんの知り合いが、ツアコンしてくれるんだと。」
「へぇ…」
いいながら、出口へとむかう。
ドイツの入国審査は比較的簡単だ。
ビザは必要ないし、入出国カードもない。
パスポートと帰りのチケットを差し出せば、さしたる質問も無く通過できる。
無事に通り抜け、スーツケースを受け取ると、6人は税関をぬけホールへと出た。
立ち並ぶ人垣を抜けて、開けた場所に落ち着けば、のぞむ肩をぽんと叩く人間が。
気配も無く後ろに立った人間を反射的に投げ飛ばしかけて、それをかわされたことにのぞむは驚いた。
春日の祖父に叩き込まれた武術は伊達ではない。それを…。
「やぁねぇ。そんな怖い顔しないでよ。」
明るい声が聞こえる。
「ドリームツアーへようこそ。歓迎するわよ。春日ご一行様♪」
振り向けば、ショートカットで眼鏡をかけた女性がにっこりと微笑んでいた。
「あ…、じゃぁ、貴方が…?」
譲が声を掛ける。すると女性はそれは楽しそうな笑顔で、横断幕を広げた。
そこには、JUST MARRIAGE CONGRATULATIONS の文字。
「…は!?」
全員が不思議そうに叫べば、その女性はにこにこと笑う。
「晩婚がはやりの昨今なのに、また若い夫婦ばかりねぇ。」
「な、何を言ってるんですか!!」
譲子が赤い顔で叫べば、その女性はこてりと首をかしげた。
「何って…ハネムーンベビー・メイクツアーでしょう?」
「!!!」
真っ赤な顔で言葉にならない叫びを上げる譲と譲子。
「…本気だったのかよ。」
「…どうしようか。」
呆れるのぞむとのぞみ。
将と臣が何かを言おうとしたら、スパン!!と小気味の良い音が当たりに響いた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜った〜!」
「いい加減にしなさいよね。」
「だって、そう聞いたのよ!!」
「それが冗談だってのも理解しているでしょうが!純真な高校生をからかわないの!」
後から現れた髪の長い女性が、先ほどの女性をしかりつける。
「って、なんであんたがここに!?」
「あんたが脱線しないように、見張りに。」
ふう、と長い髪の女性がため息をついた。
「ごめんなさいね、この子、悪戯好きだから。」
にこりと長い髪の女性が微笑む。一同を見回したあと、臣を呼んで何かを渡した。
「私は別の用事があるから行くけれど、この子が暴走するようなら、すぐに連絡頂戴ね。」
「…はぁ」
あっけに取られる一同をよそに、その女性はもう一人の女性の頭を、両手の拳でぐりぐりと押さえつけた。
「い〜い?春日さんの大事なお子様たちなんだから。くれぐれも、悪戯
しないようにね。」
「い、いたい、いたい!あなたの愛が痛い!!」
「お返事は?」
「わかったから!」
ちょっとくらいいいじゃないという女性の頭を、もう一度殴りつけて、髪の長い女性はぺこりと頭を下げると立ち去った。
「えっと…」
「気にしないで。疲れたでしょ。まずはホテルに…っと、お金持ってないよね。」
「もってますよ?」
女性に言われて、のぞみが答える。
「ん?そうじゃなくて、ユーロ。両替しなきゃ…こっちよ。」
「あ、待ってください。」
「なぁに?譲ちゃん♪」
必要以上に楽しそうに答える女性に、少々ひきながらも譲が言う。
「あの、貴方の名前は…?」
「ああ、ごめんなさい。添乗員その1とでも」
「は?」
「よびにくかったら、エキストラでどうぞ?」
余計呼びにくいんだけど…と譲が言うがきいちゃいない添乗員はすたすたと両替所へと歩き始めた。
その後を、譲と譲子が慌てて追う。
「…のぞむ?どうした。」
先ほどから無言で女性を見るのぞむに、臣が不思議そうに言う。
「……におうな…彼女。」
のぞむの低い声に、男達が驚いて彼を見た。
「のぞむくん?彼女に何かあるの?」
「………同じ匂いがする。」
「は?」
訳が分からないというのぞみに、のぞむは眉間にしわを寄せたままつぶやいた。
「…母さんと、同類のにおいがする。」
「え?」
「超マイペースで、楽しいことだいすきで、そのための労力はいとわない。
リーダーシップを取るわけでもなく、強調性がないわけでもなく、特に目立って何かをするわけでもないのに、
いつのまにか自分のおもう通りにことを進めてしまう。」
「それは、つまり…おまえでも勝てないということか。」
将がひきつった顔で言えば、のぞむがゆっくりと首をふった。
「そうじゃない。ただ、あの手のタイプに逆らうのは、とてつもなく気力と体力と忍耐力がいる。」
ふと、のぞみは臣をみていった。
「そういえば臣くん、さっきの女性に何かもらってたよね。」
「ああ、これケータイと電話番号だな。」
「え?」
「かけ方ものってる。暴走しそうになったら、いつでも遠慮せずにかけなさいだと。」
「ええっと…」
「そういえば、彼女も同じ香りがしたな。」
「ええ!?あの人と?」
のぞみが叫ぶと、のぞむがさらりと言った。
「いや、譲ちゃんたちと。」
「譲ちゃん?」
「天然に見えて鋭そうなところ。暴走ストッパーに臣を選ぶあたりとか。」
そこまで話したとき、前方から譲と譲子が叫んだ。
「兄さんたち、何をしてるんだ!?」
「早くきてください!」
「おー」
のぞむの発言によりいっそう疲れてしまった男達は、重い足取りで両替所へと進んだ。
「なんか、別の頭痛の種がでてきたんだが。」
「さっきの人に、同行してもらったほうが、いいんじゃない?」
臣がぐったりとして言えば、のぞみが苦笑しながら言った。
written by sou
イラスト sava 文 総
2007.01.31日記 楽しい添乗員♪ 他 加筆修正