譲とお姉さん
お姉さんに連れられて、ホテルから少し歩いて、駅へつづく地下道へおりる。
添乗員だと呼びづらいと譲が主張すれば、『エキストラでいいわよ♪』などといわれ、譲がすねた顔で涙目で見上げた。
それを見て慌てた添乗員から出てきた答えが『じゃ、お姉様でv』。
『様』はねぇだろと臣がけらけら笑って『お姉さん』になったのだ。
駅の地下道だけあって、様々な店がならんでいた。
ファーストフード、小さなスーパー、パン屋、本屋やブティックなど。旅行代理店らしきものもある。
その一角で、お姉さんが振り返り、皆を見渡して言う。
「じゃ私と譲ちゃんはちょっとお買い物してくるから、男の子達はここでまってなさい。」
「何を買うんだよ。」
不満そうに臣が言う。
「女のお買い物v女にはいろいろと必要なのよ。」
化粧品が壁側にディスプレイされている店をさして、言った。
おそらくここが薬局なのだろう。
「だったら、ついて」
「ついてくるな♪」
鮮やかな、けれど有無を言わせない笑顔でお姉さんに言われて、のぞむが押し黙る。
「あんな小さな店にぞろぞろ入って行ったら迷惑でしょうが。すぐすむから、待ってなさい!」
店に入ってきょろりと見渡すが、場所がよく分からない。
譲は店員にサニタリー用品はどこか英語で聞いて見た。
返った答えはクローズド。
日本と違って、薬局では取り扱っていないのだろうか。
どうしようかと譲が青くなりながら困惑していれば、店員が不思議そうにしたあと言った。
「ミンス?」
「は?」
「イエス」
店内を同じように見回していたお姉さんが、譲の後ろに来て店員に答えた。
すると店員は笑顔で売り場の一角へつれて行ってくれた。
「サンキュー」
ニコリと笑って、お姉さんが店員にお礼を言う。
「えっと…」
「ほら、譲ちゃん。どのタイプにする?」
「あの…」
「英語で月経って意味。サニタリーだとトイレグッズに取られちゃうみたいね。」
お姉さんが苦笑した。
無事買い物をすませ、皆が待つ場所へと戻る。
譲がかばんに品物を入れるのをみて、のぞみが不思議そうに言った。
「何を買ったの?」
「お前も買うとは、珍しいな。」
臣も笑って言う。
てっきり化粧品のたぐいを買いにいったのだとおもったのだが、譲がそれを買うとは考えがたい。
せいぜいリップくらいだろうが、そんな大きさではなかったのだ。
「あ、いえ、その」
あからさまにうろたえる譲の隣で、お姉さんがその肩をぽんと叩いて微笑んだ。
「女の日用品よ。細かいことにこだわるな☆」
威圧するような笑顔でお姉さんが言えば、全員こくこくと頷いた。
「じゃ、いこっか。」
先頭をたって歩き出すお姉さんの後を、譲が慌ててついていくので、譲子が苦笑して見ていた。
すっかりなついてしまったようだ。
「あ、そうだ。ドイツの観光地は結構英語が通じるから。貴方達、英語はそこそこできたよね。」
その言葉に頷くもの数名、目を逸らすもの数名。
その様子に、お姉さんはぷっと吹き出した。
「あはは。ま、文法なんてどうでもいいから、とにかく単語を羅列なさい。
会話なんて、それで通じるものよ。」
くすくすと笑う彼女を、譲が頼もしそうに見る。
「ドイツは挨拶をしっかりと。お礼はダンケがドイツ語だけどサンキューで十分。
ま、たとえ日本語でも笑顔で言えば、お礼を言われてることは通じるよ。」
「そんなものですか。」
「そんなものですよ。電話だと難しいけど、相手の顔を見ればなんとなく通じちゃうものだかんね♪」
なるほどと頷きつつ、ようやくガイドらしいことを言ったなとのぞみたちは思った。
「な、譲子。」
「なんだよ。」
譲を前方に見ながら、のぞむに言われ、譲子は不思議そうにした。
気付くと兄達も前にいて、いつの間にかのぞむと最後尾になっていた。
「もしかして、譲ちゃん、女の子の日か?」
まだ先のはずだが…と呟くのぞむに、譲子が固まったあと、真っ赤な顔で言った。
「な、なんでのぞむ兄さんがそんなこと知ってるんだよっ!!」
「譲ちゃんの体調なら完璧に把握している。飛行機の中で眠そうだったのは、そのせいか…」
のぞみの物言いに、譲子は頭を抱えた。
「…譲には言うなよ。」
「当たり前だ。ま、それとなく気遣っておくよ。病気でないとはいえ、体力は消耗するだろうからな。」
それだけいうと、のぞむは前方にいる譲を追った。
それを見送って、譲子は深い深いため息をもらした。
呆れと感嘆。こういうところはのぞむには敵わないと思う。
ああして気付かれないような優しさを、譲に降り注いでいるのだろう。
そうして、譲はそのたびに、何かを感じ取っているのだろう。
そうでければ、あの傍若無人にあそこまで惚れ込む理由がない。
「譲子ちゃん?どうしたの?」
「何でもありません。いきましょうか。」
なかなかこない譲子を迎えに来たのぞみに、譲子はにこりと微笑んだ。
written by sou
大人のお姉さん
とことこと「お姉さん」の後をついてゆく譲の後姿を見てのぞみが譲子に言う。
「譲ちゃん、すっかり彼女に懐いちゃったみたいだね」
「そうですね」
「第一印象は悪かったけど、彼女ちゃんとした人みたいだね」
「ええ。あの悪ふざけさえなければもっといいんですけれど」
「まったくだよ」
ふーと大仰にため息をつくのぞみに譲子は苦笑する。
新婚旅行に間違えるわ、女の子扱いされるわで(それも確信犯で)のぞみにとってはこれ以上の悪印象はない出会い方だろう。
「…でも中身はきちんとした大人だね。よかった、ああいう人が君達についていてくれれば僕らも安心だよ」
にこ、とのぞみが譲子に笑いかける。
?、という顔でのぞみを見上げる譲子にのぞみが少し目を逸らす。
「いくら家族同然とはいえボクらガサツな男共じゃ、さすがに女の子のフォローはできないから、ね…」
のぞみがもごもご少し赤くなって言う。
「え、あ、あの先輩、もしかして」
譲子の頬にもぽっと朱がはしる。
会話の流れで、譲が何を買ったのか鈍いのぞみにもわかってしまったらしい。
気まずい雰囲気を立て直すようにのぞみが明るい声で言う。
「え、ええと、それに君達を大事にしてくれる女の人っていうのは本当に安心できる大人だな、って思って。
大抵、ああいうタイプの女性って…君達を邪険にする事が多いでしょ?春日の叔母さんの紹介だから大丈夫だろうなとは思ってたけど少し心配してたんだ」
「ああ…それは…」
身に覚えのある譲子が何と言ったら良いのか分からず口ごもる。
将臣も、のぞみも、臣も、のぞむも、背が高くて、かなりの美形だ。
この集団と一緒に歩いているだけで女の子達から痛い視線を浴びせられる事が多い。
まして少しでも自分の容姿に自信のある人は尚更、譲子たちに敵愾心をむき出しにしてくる。
空気のように存在を無視されたり、のぞみとの間に割り込まれたり、まあ、色々と被害を被っているのは確かなのだ。
「でも、彼女は違うね。同じ女性として対等に譲子ちゃん達に接してくれてるみたいだし、譲ちゃんが懐くのもわかるな。
…まあ、ボク達を可愛い子供扱いするのはどうかと思うけど。あ、あの悪ふざけも余裕の表れだと思えばいいのか」
「そうですね。本当に、私も彼女は大人の女性だと思います」
そう言う譲子にのぞみが目を細める。
「…よかった。いい旅になりそうだね」
「そうですね」
「こら!最後尾の2人!いちゃつくのは後にしなさい!早く来ないとおいてっちゃうぞ!」
集団から遅れ気味だった譲子とのぞみに「お姉さん」が振り向いて叫ぶ。
「後ろにも目があるみたいだし?」
「そうですね。急ぎましょうか」
2人はくすっと笑いあってから、「お姉さん」の元へと駆けていった。
written by sava
イラストsava 文 sava&総
2007.02.01-02日記 譲とお姉さん 大人のお姉さん 加筆修正