朝から元気に
『おきやがれっ!』
ドカッ!!
「…男の子は朝から元気ねぇ。」
早々に目を覚まして、身支度を整えている真っ只中の女の子(と呼ぶにはトウが立ったのが一人いるが)たちは目を丸くして隣の部屋を見た。
「先輩、寝起きが悪いから…のぞむ兄さんに無茶されてないといいけれど…」
「先輩はよく途中で眠っちゃうけど、寝起き自体は結構いいから。」
譲子が心配そうに隣の部屋の壁を見て、譲は困ったように苦笑した。
「ふーん。お兄さんたちは?」
「「おなかがすけば起きてきます。」」
同時に発せられた言葉に、お姉さんが小さく笑った。
「あらあら。じゃぁ大丈夫かしら。」
いいながら、お姉さんが譲を呼ぶ。
「なんですか?」
首をかしげて近寄れば、手のひらをさしだすお姉さん。
「この臭い、平気?」
「はい。…カモミールですか?」
「よく分かるわね。」
「時々ハーブティーを飲みますから。」
ね、譲子、と後ろを向いて譲が話しかけると、譲子がこくりと頷いた。
すると、ぺたりとぬれた手が、譲のほっぺたにつけられる。
「うにゃっ!?」
思わず変な声がでて、譲が赤くなった。
「はい、ちょっとそのままね。」
言いながら、お姉さんがそっと顔を撫でる。譲はますます分からなくなった。
「二人にはお化粧なんて必要ないでしょうけど、こっちは乾燥してるからね。特にホテルは空調効いているから。化粧水くらいはつけたほうがいいかとおもって。」
手を離すと、お姉さんがにこりと笑う。
「ほら、譲子ちゃんも。ハーブティーを飲むくらいなら、大丈夫でしょ。これ、カモミールのハーブウォーターだから。」
笑いながら、譲子にもぺたぺたとつけていく。
「あと、外に行く前にリップつけておく?唇がさがさだと、痛いでしょ。」
痛いでしょといわれて、こくりと譲と譲子が頷くが、続く言葉で固まった。
「彼らが。」
「「は?」」
にこりと笑って自分の唇に人差し指を当てるお姉さんに、二人は暫く固まったあと真っ赤になった。
「二人はしないの?」
首をかしげるお姉さんに、譲が赤い顔のまま言う。
「何をですか!?」
「挨拶。」
譲が不思議に思ってみていれば、そのまま額に唇がおりてきた。
「Guten Morgen
♪」
え?と赤い顔のまま首をひねる譲をよそに、隣の譲子にも同じことをする。
思わず譲子も赤くなれば、お姉さんが柔らかく微笑んで言う。
「春日さんとこがそうだし、昨日のスキンシップを見たらそうかと思ったんだけど、違った?」
「あ、ああ。」
先に冷静になった譲子が苦笑しながら言った。
「たしかに、のぞむ兄さんはやりますね。譲に。」
からかったわけじゃないのか、と思いながら、譲子が言う。
「譲ちゃんはしないの?」
「あまり見たこと無いですね。」
「譲子っ!」
譲の顔はまだ赤いまま。
「挨拶なんだから。譲ちゃんもちゃんと返してあげなきゃ。」
もらいっぱはだめだぞ〜などとお姉さんが言うと、譲は少し考え込んだ後、ひょい、と背伸びをした。
「え?」
「おや。」
ちゅ、と譲の唇が寄せられたのは、お姉さんの頬。
「も、もらいっぱなしは、だめなんでしょう?」
頬をそめたまま譲が言えば、お姉さんが笑った。
「やられちゃったなぁ。」
「ですねー」
譲子もくすくすと笑う。
「譲子ちゃんは?」
「なに言ってるんですか!」
女3人集まれば、かしましいとはよく言ったもので。
女の子の部屋は朝からにぎやかだった。
「おはよう、譲ちゃんv」
「せ、先輩っ!」
朝7時5分前、部屋の前で出会うなり、いつものようにのぞむがキスをすれば、譲が真っ赤になる。
「ほらほら、譲ちゃん♪」
お姉さんに声をかけられて、固まる譲をのぞむが不思議に思って見つめた。
「譲ちゃん?」
「………お、おはようございます。」
譲がぐいっと伸び上がって、自分の頬にキスしたので、のぞむはうっかり固まった。
「あ、あの、お姉さんが、挨拶は、返すべきだっていったから…」
いつもと違うのぞむの反応に、赤い顔で下をむいて言い訳をする譲。
朝から刺激が強すぎたのか、のぞむはまだ固まっていた。
「おやおや、意外に純情さんね。」
「………甘いですよ。問題はこのあとです。」
譲子の言葉通り、そのあと思い切り譲を抱きしめて、キスの雨を降らせるのぞむから、譲が解放されたのは臣が部屋からでてきた時だった。
「てめぇは〜。いい加減にしやがれっ!」
「やかましいわ!挨拶して何が悪い。」
ゴゴンッ
いつものバトル勃発かと思えば、お姉さんに互いの頭をぶつけられ、うずくまる二人。
「朝は静かに。宿泊客は私達だけじゃないんだよ。」
にこり。
拳を握ったままのお姉さんに、いつもの声でいつもより黒い笑顔で言われて、二人はこくりと頷いた。
「さて…と、のぞみくんは?」
全員が同室ののぞむを見るが、のぞむはそっぽを向く。
「知らん。起こしても起きないあいつが悪い。」
「のぞむ兄さん!」
「起こしたって…ベッドから蹴落としただけじゃない。」
お姉さんが呆れて言えば、のぞむが目を見開いた。
「なんで!?」
「おや、当たり?音の感じと、のぞむくんの行動パターンから推察したんだけど。」
にやりと笑いながら言うお姉さんの言葉を聞いて、譲子がのぞむを怒鳴る。
「何てことするんだよ!」
「知るか!」
「ほらほら、怒鳴らない。しょうがないな。朝食の時間が無くなるから私がいくわ。
明日からは譲子ちゃん、おねがいね。」
「え?」
譲子の疑問に答える事無く、お姉さんはのぞみたちの部屋へとはいって言った。
一時の無音
部屋の中からバタンバタンという音がして、そのあとお姉さんが笑いながら出てきた。
その後ろにつづくのは、呆然とした様子ののぞみ。
「さ、行くよ。」
にこにことエレベーターへむかうお姉さん。
譲たちは素直に後をついていくが、譲子と将は、驚いてのぞみを見た。
「おまえ、起きてたのか?」
寝起きの悪さを知っている将が言えば、のぞみが青い顔で答える。
「…起こされた。」
「……そうか。」
どうやって、と聞こうとした将は、いまだ遠くをみつめるのぞみを見て、引き攣った顔で呟いた。
譲子も不思議に思いながらも、青い顔ののぞみを労わって隣を歩いた。
ホテルのレストランでルームナンバーと告げ、あいている席に座るとバイキング形式の朝食を取る。
譲子と譲が先に席を離れたのをみて、お姉さんが男たちを呼んだ。
「君たち、ちょっと無用心だよ。セカンドキーくらいかけなさい。」
そう言って見せられたのは、デジカメの画面いっぱいに映る、自分達の寝顔。
「おい!?」
「あっはっは。ま、そういうことで。」
「ちょっと待ちやがれ!」
「はいはい、文句いうと、この画像データあげないぞ。」
怒鳴る臣にひらひらと手を、お姉さんが振って差し出したのは、譲と譲子が仲良くよりそって眠る姿。
「ありがとうございます。お姉様。」
「うん。君はやっぱり春日さんの息子さんね。」
ある意味潔いのぞむの態度に、お姉さんが笑った。
自分の寝顔を撮られたのは癪だが、朝から可愛い譲を立て続けにみることができて、のぞむの機嫌はなかなか良い。
とくに、朝の挨拶は、昨夜できなかったぶん余計に嬉しかったようだ。
「くれぐれも。」
「はいはい。君たち以外には見せませんよ。」
笑いながら朝食を取りに向かうお姉さん。その後をご機嫌にのぞむが歩く。
いまだ難しい顔をしているのぞみに、将が大丈夫か?と声をかけた。
「あ、うん。…大丈夫。ただ…ボク、昨日セカンドキーかけて眠ったはずなんだけど…」
勘違いかなぁ…というのぞみに、将と臣はため息をもらした。
「たぶん…」
「勘違いじゃねぇよな。」
いったい彼女が何をどうやったのか。
いろいろと謎は深まるばかりである。
written by sou
文 総
2007.02.05日記 朝から元気に 加筆修正