レープクーヘンは魔女の棲家



「まだ帰りの列車まで時間があるから…博物館にでも行こうか。」
 いいながら、再びレンガの坂道を下る。

「うーん。日曜日でなければなぁ。市場にレープクーヘンもあるんだけど。」
「レープクーヘン?」
 譲が首をかしげると、お姉さんがにこりと笑って行った。
「クッキーの元祖といわれる、ここ、ニュルンベルク発祥のドイツ菓子。
ちょっと硬めの、日持ちするクリスマスのクッキーだよ。別名・ニュルンベルクの宝石。
蜂蜜に、ライ麦やアーモンドプードル、ドライフルーツたっぷり、シナモンなんかのスパイスを加えて焼き上げるから、生命のお菓子って名前が付くらい、栄養価の高いクッキーでね。
卵を使うと柔らかめになるけど…日持ちの点では、使わないほうがいいかな?」

 細かい立て続けの説明に、譲は興味を持ったのか、頷きながら聞いている。

「ヘンゼルとグレーテルに出てくるお菓子の家は、レープクーヘンで出来ていたっていわれてるそうよ。魔女の主食が生命のお菓子ってことなのかもね。
他の街ではクリスマスの時期にしかないけど、ここでは年中売ってるって聞いたんだけどね。
一度本場ものも食べてみたかったんだけど…。」

 お姉さんはそこまで言うと、んーと考えてから言った。
「ま、本場ものよりおいしいものを食べちゃったから、食べないほうが無難かな。」
「本場ものより…?」
「すごく、詳しいんですね。」
 のぞむが不思議そうに聞き返し、譲子も驚いてお姉さんを見る。
「そういうのに詳しいっていうか、大好きな友人がいてね。その子がまた器用なもんだから。
おいしいレープクーヘンを作っちゃったのよね。私達の味覚に合わせて。」
 そう言って、にこりと笑うお姉さん。
「クリスマスクッキーっていうと、ジンジャークッキーだけど…それじゃぁ美味しくない!っていって、レープクーヘンのレシピを見つけたみたいなの。
いろんなレシピを覗いて、一番味覚にあいそうなので作ったのよね。
それがもう、ど真ん中にストレートって感じで、味覚のツボを貫いたっていうか。」
 おしかったvと子供のような顔で笑うお姉さんに、思わず眼を見張る。

「いいなぁ…」

 譲がぽつりと呟くので、お姉さんが譲に顔を向けた。
「なに?譲ちゃんも食べたい?」
「え?あ、はい。食べたいのもですけど、作ってみたいかなって…。」
 はんなりと頬を染めて譲がいうので、お姉さんは思わず抱きついた。
「やぁんv譲ちゃんってば可愛いvv」
 ぎゅっと抱きしめて頭をなでるので、譲が真っ赤になる。

「あの、お姉さん。」
「ん〜?」

 のほんとお姉さんが返事をすれば、後ろから漂う殺気。

 譲に抱きついたままお姉さんが軽く片足を後ろへ振った。



「まだまだ、甘いわよ、坊やv」
 くすりとお姉さんが笑う。
 譲を離して、そのまま上から落ちてきた何かをパシリとつかんだ。
 掌には1ユーロコイン。
 それをのぞむへと差し出す。
「はい。お金を粗末にしちゃだめだぞ♪」
「………すみませんね、手が滑りまして。」
 厳しい顔をしたまま、のぞむがそれを受け取る。
「ここにもv」
 笑顔でお姉さんが拾ったのは、ちょっと外れた位置に突き刺さっている50セントコイン。
「ふむ。ちょっと力加減をミスったか。」
 レンガに半分以上突き刺さったコインを見てお姉さんが言う。
「これ、もう自販機に使えないぞv」
 笑顔でコインを返すお姉さんに、どうも、とのぞむが呟いた。



「…なぁ、今のって…」
「のぞむくんが投げたコインを、お姉さんが蹴り上げた…」

 再び青い顔でのぞみが言う。
 ありえねぇ…と呟く将と臣。
 むっとしたままののぞむ。
 きゃわきゃわとレープクーヘンのレシピを聞く譲と譲子。
 にこにこと教えるお姉さん。
 博物館へと向かう7人は、奇妙な一行になりつつあった。

「レープクーヘンを食って、魔女にでもなったか。」
 ぼそりとのぞむが言えば、音もなく何かが鳩尾に来た。
 強く鋭く急所をうがったそれに、思わず体を曲げれば、ぽとりと落ちたのど飴の小袋。
 臣はそれを無言で拾い上げ、ぽん、とのぞむの肩を叩いた。
「諦めろ。」
 立ち上がって前を睨めばお姉さんがこちらに視線を送って、妖艶な笑みを見せた。

 まるで、魔女のごとく。





written by sou



イラスト sava 文 総 
2007.02.19-20日記 レープクーヘンは魔女の住処 まとりっくす? 加筆修正