ナチュラルセクハラ
「何だ譲子、下ばっか見てんな。疲れたか?」
坂道の途中、将臣が譲子に声をかけた。
譲子は将臣を振り返ると少し照れたように笑った。
「ううん大丈夫。ちょっと、ぼうっとしてただけ」
「どうした?珍しいな…」
と将臣が前方を見ればお姉さんがヒールの音も軽やかに、すたすたと歩いてゆく。
「ん?あれか?まさかお前もああいうの履きたいとか言うのか」
「…私がそういう事言っちゃ、駄目かよ」
少し拗ねて譲子が言うので、将臣は驚いて妹の顔を見る。
「駄目とは言わねぇが。あんな凶器で歩かれたらちょっと怖えな」
「凶器って…あのな。別にそういう目的で履きたいわけじゃないから」
「じゃあ、何だ?オシャレってやつか」
「いや…別に、そういう訳でも、ないんだけど、さ…5cm違うと、いいな、とか思ったりとかして…」
譲子にしては珍しく、もごもごと言葉をにごらせる。
「あ〜、なるほど、な」
にやり、と何かを察したらしい将臣が笑う。
「もう少し、背が高くなりますように、ってか」
先程熱心に祈っていた譲子の姿に答えを見つけたらしい。
「…!言わないっ!」
将臣に図星を指されて赤くなった譲子が、ぷい、と怒って猛然と歩いてゆく。
譲子の身長は155cmと小柄だ。こうして外国に来てみるとさらに小さくなった気がするのだろう。
とことこと精一杯堂々として歩く譲子の後姿に笑いをかみ殺しながら将臣がその背中を追いかける。
「おい、待てよ…ほら、よっと」
ずぼっ
「えっ…きゃあっ!!」
急に譲子の足の間に将臣が頭を突っ込んできた。
と、驚く間もなく、ぐい、と強い力で譲子の足が地面から引き離された。
「う、うわあっ!!」
将臣が譲子を肩車したのだ。
「ほら、これでどうだ?」
「や、やめろっ、降ろせっ。何するんだよ!!」
「背が高くなりたいんだろ?良かったじゃねえか」
「だ、だからって肩車なんかするか!?」
ぷーっ、と2人の少し後ろを歩いていたのぞみが堪えきれずに笑いだす。
恥ずかしさで譲子の顔が真っ赤に上気する。
「せ、先輩も見てないで助けてください!兄さん、も、もう降ろせよ!」
「何だ?もう気が済んだのか?」
「済んだ済んだ!もう十分堪能したから、これ以上妹を見世物にしたくなかったら今すぐ離せ!」
「何だつまんねえ、楽できていいじゃねえか」
と言いながらも将臣は譲子を下に降ろしてやる。
のぞみが笑いながら手を伸ばして譲子を受け止める。
「は、恥ずかしい…まさかこの年で肩車されるなんて〜〜〜」
「あはは、可愛かったよ」
「も、もう〜人事だと思って!!」
真っ赤になって譲子はぽかぽかとのぞみを叩く。
「うわ、八つ当たりだ」
「もう、先に行きますからねっ!」
譲子は真っ赤な顔のまま、くすくす笑う他の観光客達の視線から逃げるように坂道を上がっていった。
譲とお姉さんが笑いながらそんな譲子を追いかける。
「…やっぱり将臣くんには敵わないなあ」
「何がだ?」
「天然なとこ」
「兄貴だからな」
「うん。そこだけは一生敵わないね、きっと」
「お?それ以外は勝つ気か?」
にや、と笑う将臣に、のぞみもにっ、と笑い返す。
「もちろん。最後に譲子ちゃんを受け止めるのはボクだからね?」
コンチクショウ!
と、将臣は心の中でのぞみを罵倒するのだった。
written by sava
イラスト&文 sava
2007.02.19 ナチュラルセクハラ 加筆修正