大人の女の武器



「訊いていいか?」
「聞くだけでいいなら。」
「っておい。」
 お姉さんの言葉に、律儀に突っ込む臣。
「で?何が訊きたいの?」
「ああっと…これのどこが泉なんだ?」

 目の前にあるのは、どう見ても塔。噴水にすら見えないのに、何故泉なんだ?と臣が言う。
 ピラミッド状に精巧な細工の彫像が並び、20メートル程度の塔の形をしている。
 それを綺麗な装飾をされた鉄の柵が取り囲んでいるのだ。

「あっはっは。私にドイツ民族の歴史を求めないように。」
 けらけらとお姉さんが笑う。
「まぁ、町で最古の泉だそうだから、もともとは水があったんじゃない?」
 そういって、塔の一角に連れて行く。
「ほら、ここの柵の上のところ。鉄の柵の装飾に、金色の輪が嵌ってるでしょ?
アレを3回まわしながら願い事をするんですって。」
 お姉さんが、説明しながら塔を指さす。

「願い事ねぇ…」
「話のネタにでもやってきな!観光地ではバカになるのが一番よ。」
 呆れたように言う将に、お姉さんがにやりと笑った。
 その言葉に苦笑しつつ、それぞれ順番に回していく。

「お姉さんはやらないんですか?」
 ぱしゃぱしゃと写真を撮っていたお姉さんに、譲が言う。
「私?そうねぇ…」
「バカになるのが一番なんだろ。」
 やっとけよ、と臣に背中を叩かれ、お姉さんは小さく笑いながら輪のところへ行った。

 塔の前にたつとその笑みを納め、輪を回しながら、静かに祈りをささげる。
 その姿は修道女のように敬虔で…思わず眼を奪われた。

 お姉さんが戻ってくると、譲が言う。
「熱心に見えましたけど、何を祈ったんですか?」
「秘密♪願い事は言うと叶わないそうだよ。」

 ぽんと譲の頭をなでて、次に行こうか、とお姉さんが皆を促した。
 そこから先は勾配が激しくなっていく坂道だったが、皆ですたすたと登る。
「皆、体力あるわね。けっこうきつい坂なのに。」
 息切れもせず、ペースダウンすることも無く、坂道を平気であるく6人にお姉さんが言えば、のぞむが呆れたように言った。
「こっちのセリフだ。そのヒールでよく歩けるな。」

 おねえさんのブーツを指差す
 5センチはありそうな、先が細くなっているヒールだ。
 街を歩くには普通の靴なのだろうが、坂を歩き回るのには向いていなさそうだ。

「大人の女ですから?女の武器は常備してますよ〜」

「………武器かよ。」
「………武器だね。」
「………武器だな。」

 将が呆れていえば、のぞみと臣がこくりと頷いた。
 ほほほほほ〜と笑いながら先を行くお姉さん。
 その後ろでは、微笑むもの1名、苦笑するもの2名、呆れるもの2名。怯えるもの1名。

「ほら、カイザーブルグが見えてきたわよ。」

 旅は、まだまだ続く。





 旅=食べ物



「カイザーブルグ。11世紀に建てられたお城だよ。」
「城塞って感じだな。」
 レンガ造りの大きな建物を見上げて臣が言う。
 御伽噺に出てくるような可愛らしい城ではなく、レンガの壁が続いている。
「そりゃ、お城だもん。何とかと煙は高いところっていうだけあって、お山のてっぺんにあるから、景色はいいわよ。」
 高台から見下ろす町並みは、ジオラマのようだった。
 一通り回って見てから再び坂道をくだる。
「さて、そろそろ食事にしましょうか。」
「食事というより、おやつの時間ですね。」
 3時近いので、譲子がそう言って苦笑する。
「まぁね。でもせっかくここまできたんだから、ニュルンベルガーソーセージを食べなきゃ!」
「ニュルンベルガーソーセージ?」
「そ。小ぶりでスパイスの効いたソーセージ。
小ぶりって行っても、日本で一般的に売っているものと同じか、少し大きいくらいだけどね。」
 美味しいわよ、といいながら、坂道の途中にあったお店に入っていく。
「どれにする?」
「って、わかんねーっての。」
「しょうがないなぁ。好き嫌いは、そんなに無かったわよね。」
 お姉さんが言いながら、メニューを指して注文した。

 ものすごく、適当に。

「おい、いいのか!?」
「大丈夫でしょ。全部にソーセージは入っていたから。」
「ってなぁ…」
 あははと笑って料理を待つ。
 出てきたのは、皿一面に敷かれたキャベツの上に乗ったソーセージ。
「うわぁ…」
「ザワークラウトね。酢漬けのキャベツ。へぇ、あっためて食べるんだ。」
 あたたかなキャベツをみて、お姉さんが言う。
「ふむふむ。付けあわせが違うのか。ポテトにトマトに…
あとは大きい…フランクフルターソーセージじゃない?
そっちの半分ぐらいの大きさのが、ニュルンベルガーソーセージだよ。」
 一緒にだされたパンは、薄切りされたドイツパン。
「このパンも変わってますね。バケットやカンパーニュとも違って…
しっかりとしているのに硬くない。弾力もすくないし…」
「ライ麦のパンじゃないかな。ドイツはライ麦を使ったパンが多いから。」
「譲、そっちのソーセージ少し頂戴。」
「うん、私もそっちたべたい。」
 きゃわきゃと食事をする譲たち。
「なぁ、皿の数、多くないか?」
「君達が一皿で足りるとは思えなかったから。」
 3つほど多い皿をさして臣が言えば、にやりとお姉さんが笑う。
 それほどおなかがすいていなかったはずなのに、皿に敷かれたキャベツでさえ残すものはいなかった。





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文 総 
2007.02.15-16日記 大人の女の武器 旅=食べ物 加筆修正