列車に揺られてどこまでも
「うむむむむ。」
駅の自動券売機の前できょろきょろと、お姉さんが文字を追う。
やがてポツリと一言。
「わからん。」
思わずずっこける6人。
「分からないって…」
「どうも、路線図が本と違うみたいなのよねぇ。ちょっとまってて。分かるところに行ってくるから。」
「え?」
譲が止めるまもなく、お姉さんは走り去った。
どうやらカウンターのほうへ行ったようだ。
「結構並んでいるみたいだけど…」
「大丈夫かな。行ったほうがいいのかな。」
譲と譲子が悩むが、のぞむが止めた。
「そのほうがいいんなら、あの人がそういうだろ。下手に動かないほうがいいと思うぞ。」
珍しく常識的な意見を言うのぞむに、譲はもちろん譲子も頷いた。
当然ながらのぞむの魂胆は譲と離れたくない9割、他1割だが。
暫くして戻ってきたお姉さんの手には一通の封筒。
「買ってきたよー♪」
「お帰りなさい。」
「お疲れ様です。」
譲と譲子が微笑む。
「往復で買ったから。さ、乗るわよ。」
お姉さんに促されて、全員がホームへ向かう。
「改札がないんですね。」
「うん。地下鉄もそうだよ。乗ってるときに駅員さんが回ってきて、切符に印をくれるの。」
程なく予定の電車が来て、乗り込む。
まるで、個室のように、4つずつに区切られた座席。
「札の無いところなら、好きなところに座っていいわよ。」
「札?」
「指定席で買うと、そこに札が入るのよ。札が入っているところは、予約済みってこと。」
いいながら、お姉さんが各自にチケットを渡した。
「駅員さんが来たら、それを差し出して。」
「っと、行き先ってどこだよ。」
「ん?ニュルンベルグだよ。」
フランクフルトから2時間の列車の旅はなかなか好調だった。
天気もそこそこ良くて、ヴォルツブルグを始点とする、ロマンティック街道と呼ばれる道沿いの田園風景を見ることもできた。
「ねぇ、お姉さん…ってあれ?」
譲が前を見ると、お姉さんが目を閉じていた。
ちなみに席の割り振りは、東町の三人と、お姉さんと西町の3人という、ほぼいつもの割り振りだった。
「寝ちゃったのかな?」
「疲れたのかもな。」
昨日からはしゃぎっぱなしだったのを思い出し、臣が言う。
「もう、いい年だろうし。」
のぞむがぼそりと呟いた瞬間、ヒュッという音と共に、のぞむの顔の真横にボールペンが突き刺さった。
髪を縫い付けるように座席の背に突き刺さったボールペンを、のぞむは冷や汗をかきながら外した。
大量生産のものに見えるそれは、明らかに日本製のもの。
つまりは、目の前で眠っているはずの、彼女のものだ。
「何をやってるのさ。」
心持ち青くなったのぞむに気付いたらしいのぞみが、わざわざ隣から顔を出した。
「………………見えなかった。」
「は?」
「手の動きが、見えなかった。」
ってか、動いたように見えなかったのに刺さった。と、のぞむがボールペンでお姉さんを指す。
「……………だろうね…」
「お前も、何かされたのか?」
「………忘れさせて………」
お願い、と呟いて、のぞむよりも青い顔で戻っていくのぞみに、臣は不思議そうに二人を見比べた。
こてん
臣は肩に重みを感じて横を見た
そこにはお姉さんの頭が乗っかっていた。
「おい?」
しばし引き攣った顔で見ていたが、反応が無い。
譲がお姉さんの顔を覗き込む。
ひらひらと手を振っても動かない顔に、譲はくすりと笑った。
「なんか、可愛いね。」
「ゆずちゃんのほうが可愛いよ。」
いつものようにのぞむがキスをする。
臣が拳を繰り出そうとすれば、譲がだめ!と押しとめた。
「あ?」
譲が自分達の喧嘩を止めたことなど無い。
臣が不思議そうにしてみれば、譲が人差し指を口に当てた後、お姉さんを指差した。
「起きちゃうでしょ。」
譲になだめられて、二人はしぶしぶ席につく。
そんな様子を見ていたわけではないだろうに、お姉さんの口元には笑みが浮かんだ。
それに気付いた譲は、可愛いと呟き、臣とのぞむは嘘くせぇ!と心の中で突っ込んでいた。
written by sou
文 総
2007.02.09日記 列車にゆられてどこまでも 加筆修正