あなたも一緒に 



 今度は、先程行かなかったゲーテハウスの方角へ向う。
 ただし目的は、一本道を中に入ったゲーテハウスではなく、通り沿いにある「ヘンケルス」
「こちらも有名なキッチン用品…って行っても刃物だけど。」
 お姉さんがくすりと笑って説明する。
「すごーい…」
 いいなぁ等と目を輝かせている姿はとても可愛いのだけれど。
 手にしているのが、切れ味の良い包丁とあっては、思わず引きそうになる。
 流石にコチラではそこまで買い込まず、けれど、しっかりと、切れ味の良い万能包丁とキッチンバサミを手に入れていた。
「ネイルケア用品もあったのにねぇ…」
 くすくすと楽しそうにお姉さんが言えば、譲と譲子がほんのりと頬を染めた。
「だ、だって、爪はそんなに手入れしないし…」
「長い爪だと、料理の邪魔ですから。」
 その答えに、お姉さんがまた笑う。
「おかしい、ですか?」
「ううん、可愛いv」
 ちゅ、とそれぞれの頭にキスするものだから、どこかの大人子供な少年から呪いの電波が放たれる。
 だが、お姉さんは知らぬ顔で、二人に柔らかく微笑んだ。
「いいんじゃない?自分が気持ちいいのが一番だよ。
でもま、今はシールで付けられる付け爪も、ずいぶん良くなってるから、興味が湧いたら試してみるといいよ。」
 そういって渡されたのは、ネイルファイル(爪やすり)。
「え?」
「未来の淑女たちにプレゼントv 場合によっては爪きりよりいいよ。」
 にこりと笑う顔は、綺麗な大人の女の顔。
 ありがとうございます、と二人は嬉しそうに微笑んだ。





 ヘンケルスを出ると、あたりはすでに暗くなっていた。
「本当に、日没が早いですね。まだ5時くらいのに。」
「日の出は遅いし。7時過ぎてて真っ暗だったのはびっくりした。」
「そうねぇ。冬のドイツは日が短いから。」
 そんな話をしながら、買い物の仕上げにと、すぐ近くにある三越入った。
「ドイツの土産なら、有名どころはたいていそろうよ。見てみたら?」
 買わないだろうけど、と、お姉さんが笑って言う。
 ドイツのお土産が一同にそろうと言うだけあって、種類は豊富だ。
 また日系だけあって、日本人の店員もいて、気軽に聞くことはできたけれど、欲しいと思うものはなかった。
 マイセンなどの陶磁器を買って帰る気はないし(それ以前に高い)、ボディケア用品もぴんと来ない。
 シュタイフのテディベアも可愛いと思ったけれど、買うとなると考えてしまう。
 譲と譲子が、んー、といいながら見て回っていると、将と臣が二人を呼んだ。
「なに?兄さん。」
「どうかしたのか?」
 首を傾げる二人の前に差し出されたのは、小さなテディベア。
 ライトグリーンの小さな熊に、色の濃さの違う緑のリボンがかけられていた。
「え?」
「一つくらい、それっぽい土産を持っていても、悪くねぇだろ。」
「仲良くお揃いだ。頼むから、速く受け取ってくれ。」
 俺らが持ってるとハズいと臣がぼやく。
 テディベアのタグを見れば、シュタイフとある。
「だ、だって、これ高いだろ!?」
「日本で買うよりは安い。」
「だからって…」
「ま、一番小さいやつだけどな。」
 いいから、と渡されたテディベアは、確かに小さいけれど。
 シュタイフ製だけあって、小さくても手足がしっかりと動き、立ったり座ったりできる。
「いつも世話になっている妹へ、兄からの礼だ。受け取れ。」
 今更要らないといっても、先程のぞむが言ったように、買ってしまったものはどうしようもない。
「え…っと。」
「その、」
 譲と譲子は顔を見合わせた後、、自分たちの兄に柔らかな笑顔を向けた。
「「ありがとう、お兄ちゃん」」
 満面の笑みで言えば、二人の兄は嬉しそうに可愛い妹の頭を撫でた。



「あ、先こされちゃった。」
「え?」
 後ろから声がして、譲子が驚いて振り向く。
 のぞみがにっこりと笑って、譲子に小さな袋を差し出した。
「あの…」
「これは僕から。付けてみて。よかったら、譲ちゃんと一緒にでも。」
 中を覗いたら、綺麗なピンクのマニキュアの小瓶。
「このくらいなら、つけてもおかしくないでしょう?」
 お姉さんがネイルケア用品を渡したから、どうせなら、とそれを選んできたらしい。
「ありがとうございます、先輩。」
 ほわぁと赤くなる譲子に、のぞみがにこりと笑う。
 それを見て、譲の隣に来たのぞむがからかうように言った。
「へぇ、自分の色を譲子につけようってか?」
 のぞむに言われて、その色がのぞみの髪の色に似ていることに気付き、譲子の顔が一段と赤くなる。
 やるじゃねぇかとからかうのぞむに、そんなんじゃないと言いながらのぞみが睨む。
 そんなやりとりを眺めながら、譲がこっそりと譲子に囁いた。
「それは、譲子だけが、つけてね。」
「譲…」
 にっこりと微笑む譲に、譲子は赤い顔でこくりと頷いた。





 一騒ぎした後、デパートを出ると、もう真っ暗だった。
「さてさて。ご飯どうしようか。この辺で食べてく?それともいったんホテルに戻る?」
抱えている荷物を見て、お姉さんが言う。
それぞれが顔を見合わせて、笑い出した。
「いったん戻りましょう。」
「了解〜♪」
その言葉を合図に、地下鉄の駅に戻るため歩き始める。

「譲ちゃんも、つけてみる?」
 す、と渡されたのは、先程譲子が持っていたのと似ているマニキュア。
 けれど、譲子が受け取ったものより濃いピンク色。
「え?」
「料理をするのに気になるら、ペディキュアにするといいよ。」
「せ、先輩?」
「この色なら、塗ってあっても不快じゃないだろ?ま、譲ちゃんの爪は、そのままでも綺麗だけど。
 遠慮が先立つ譲は思わず首を振る。
「いいから。…俺の色を、つけてくれないかな?」
 のぞむが首を傾げて覗き込むと、譲の顔が綺麗に赤く染まる。
「俺のだっていう、証にね。」
 そっと囁かれて、譲は赤い顔のままおずおずとマニキュアを受け取って、そっと握り締めた。
「…、いいん、ですか?」
 あなたのものだと思っても。
 言外の言葉も拾ったのぞむが、もちろんだよ、と、甘い笑顔で譲を抱き締めた。



「ほおら!そこのバカップル!!早く行かないと夕食食べ損ねるぞ!」
「はいはい。」
のぞむは面倒そうに返事をしたが、バカップルといわれて今の状況を認識した譲は真っ赤になった。
「ほら、行くぞ。」
後ろにいた臣が二人の背中を押す。
「臣」
「兄さん」
「俺は腹がへったんだよ。」
うりゃ、とのぞむを蹴飛ばす臣に、のぞむが反撃し、譲が文句を言う。
また始まった、と将が言い、譲子が呆れ、のぞみが微笑んで、それを見る。

それでも皆、前へ進む足は止めなくて。
いつものように喧嘩しながら、いつもと違って歩き出す。

少しずつ何かが変わりながら、それでも変わらない日常を、この先も進んで行くのだろう。



あなたと一緒に。
あなたも一緒に。





「ほおら、通行の邪魔をしないの!」
ゴンと辺りにいい音が響くまで、のぞむと臣のじゃれあいは続いた。





written by sou



文 総 
2007.02.27日記 あなたも一緒に 加筆修正