あなたと一緒に
後ろをゆっくり歩く譲を振り返り、のぞむがそっと手を差し出す。
「譲ちゃん、大丈夫?」
差し出された手を握り、譲は照れと恥ずかしさに赤くなる。
「すみません、先輩。」
「何が?」
「その、はしゃぎすぎたみたいで…」
ちらりとのぞむが持っている荷物を見る。
譲はローライではそれほど買わなかったものの、そのまえのマギーで半端でなくかってしまったのだ。
幸い、割れるものは少ないが、それでもそんなに軽いものでもない。
「気にしなくていいよ。あの人が言ったとおり、俺達が食べることになるんだろうから。」
珍しいものも見られたし、とのぞむが笑うので、譲が赤くなって俯く。
普段から主婦な譲は、こんな風な買い物をしたりしない。
まして、自分に荷物もちをさせてしまうような買い方はしないのだ。
「や、なんかもう。全部面白そうで。インスタントなんかでもどんな味になるのかなとか、
パスタやポテトの元を見たら、作ってみたくなっちゃって…」
つい…という譲に、のぞむは小さく笑った。
「うん。俺も食べてみたい。だから、作ってね、ゆずちゃんv」
一緒に食べようと言って、ちゅ、と譲の頬にキスをするのぞむ。
譲は赤い顔のまま、はい…と小さく呟いた。
見るのも買うのも使うのも食べるのも、全部貴方と一緒に。
「意外ね。邪魔しないの?」
「珍しい光景だからな。」
お姉さんが言えば、臣がボソリと呟く。
「珍しいって…?」
「あれ。」
臣が指差したのは、のぞむと譲の繋がれた手。
「……珍しいの?」
「のぞむが手をつなぐのはな。大体、腰か肩を抱く。」
「なるほど。」
じゃ、写真撮っちゃえ、とお姉さんがパシャパシャと、デジカメとカメラの両方で写真を写す。
もちろん、もう一組の珍しい光景も。
「ふふふ。後が楽しみだことv」
「おう、コッチにもまわしてくれ。」
遊ぶからという臣に、お兄ちゃん達は大変ねvと、将と手をつなぐ譲子の写真も追加で撮るお姉さんであった。
ローライへ行った後は、すぐ近くのカウホーフ(デパート)へ。そこでもキッチン用品を見て、ケーキ型を見繕う。
「面白い形。」
「クグロフ型ね。日本に有るものより、形が細かくて可愛いね。」
「あ、3種類セットになってるのもあるよ?」
「わぁ。」
一通り見て歩いた後は、地下へいって、お土産のお菓子を選ぶ。
「ほら、この辺のチョコなんていいんじゃない?」
「へぇ、たくさんありますね…シュガーレスチョコなんてあるんですか…って、これメイド イン ベルギーですが。」
チョコの裏の表示を見て、譲子が突っ込む。
「あらほんと。あ…これってもしかしてノイハウス…かな?」
「ノイハウス?」
「ベルギーの王室ご用達チョコレート店。へぇ、こんなのまで出してるんだ。」
ベルギーチョコならおいしいとおもうよ、とお姉さんが言った。
「ドイツでベルギーチョコ?」
「あら、日本じゃ手に入らないという点では一緒でしょ?」
それもそうだ、と皆いろいろ見て回る。
「ワインもねぇ。手荷物に持ち込めれば買うんだけど。」
「ヨーロッパ方面は今厳しいですからね。」
「液体の持ち込みは、免税店で当日買ったもののみ、だもの。テロ以来、極端に厳しくなっちゃったからね。」
む〜とうなるお姉さん。
「いっそ箱単位にして郵便で送るか。」
「何本買う気だよ。」
「さぁ?」
くすくすと笑いながら、お土産になりそうなもの、自分が食べたいものなどを買っていった。
ざっと買い物を済ませてデパートを出ると、疲れていないなら次に行こうかと、お姉さんが歩き出す。
「譲ちゃん。」
「なんですか?」
のぞむに呼ばれて顔を見上げれば、にこりと笑ってのぞむが包みを差し出した。
「?」
「プレゼント。いつもおいしい料理をありがとう。」
のぞむの言葉に譲は眼を見開いた。
「そ、そんな!もらえませんよ。」
「いいから、いいから。もう買っちゃったんだよ。俺が使うものでもないし。」
そう言って、のぞむは譲に強引に包みを渡した。
譲が困ったような顔でのぞむを見上げる。
開けてみて、といわれて、譲はがさがさと包みを開けた。
出てきたのは、赤いリボンの掛かった可愛いウサギの焼き型。
「…これ…」
「さっき、見つめてただろ?」
可愛いな、と見つめていたけれど。
買えない値段ではないが、使い道が限られているし、使う時もなさそうだし。
兄達相手にこの焼き方でお菓子を焼いても…と諦めたものだった。
「これで、また何か作ってよ。」
のぞむは譲が気を使わないようにそう言った。
そして、これを使って譲が何かを作るところを見たいと思ったのも、本当だった。
にこりと笑って自分を見るのぞむを、譲が瞳を潤ませて見上げる。
自分を見ていてくれたことが嬉しくて
自分を思ってくれたことが嬉しくて
譲は感極まって、のぞむに抱きついた。
のぞむは器用に荷物をよけて、片手で譲を抱きしめた。
「………のぞむくんって、上手いわねぇ…」
君も見習ったら?とお姉さんがのぞみに言う。
「やめてくれ。こいつまであんなんになったら、手に負えない。」
「あははは。」
将がげっそりとして言うので、お姉さんが大笑いした。
written by sou
イラスト sava 文 総
2007.02.27日記 あなたも一緒に 加筆修正