Ich liebe dich
「すみません、先輩。重くないですか」
「大丈夫だよこのくらい。4分の1の分担だし」
譲子と譲が買いあさったキッチン用品は男達にそれぞれ4分の1ずつに分けて持たされた。
譲子と譲は自分で買ったのだから荷物のひとつくらい持つと言い張ったのだが
「男の子達は手持ち無沙汰の様子だったから、丁度いいのよ♪」
とお姉さんに明るく却下されてしまったのだ。
男達の持ってくれた荷物はそれでも結構な量で、思わず譲子は顔を赤らめた。
「す、すみません…何だかはしゃぎ過ぎてしまって…こんなに買占めるつもりじゃなかったんですけど」
恥ずかしそうにそう言う譲子にのぞみがにこにこと微笑んで答える。
「ううん、気にしないで。実はボクこういうのやってみたかったから」
「そう・・・なんですか?」
「譲子ちゃん、普段あんまり買い物とかしないでしょ?一度荷物持ちっていうのを体験したかったりして」
「そうですか?先輩がいいのなら、いいですけど…」
「うん、楽しい。すごく。それにこれ見た目ほど重くないし…」
きゅ、と譲子の手にのぞみの手が重ねられる。
「ほら、ね?片手で持てるくらいだから」
「そ、そ、そうです、か…」
ぽわぽわと、なんだか夢の中で歩いてるみたい。と譲子は思う。
一緒に買い物をして、荷物を持ってもらって、手をつないで歩くなんて。
まるで、恋人みたい。幸せで、涙がでそうだ。
「〜〜♪〜〜♪♪…」
のぞみが小さく何かの歌を口ずさむ。
「…何の曲ですか?」
「ああ、っと…」
のぞみが照れたように笑う。
「学校で習った奴なんだけどね。何か、口をついてでてきちゃった」
「綺麗な曲ですね、何て名前の歌なんですか?」
「…Ich liebe dich」
「いっひ…?ああ、ドイツの歌なんですね」
それで、と納得する譲子に、のぞみが少し困ったように笑う。
「…何だか夢みたいだな、こうして譲子ちゃんと手をつないで歩けるなんて」
「えっ?私もさっきそう思いました!」
「え・・・」
「あ・・・」
お互いにお互いの言葉に赤面する2人。
それでもまだぎこちなく手はつないだまま。
「夢じゃねえって分からせてやろう」
後ろから現れた将臣が譲子とのぞみのつないだ手をべしりと叩き落す。
「うわ、兄さん」
「あはは、来たね小姑」
「誰が小姑だよ。さっきから黙って見てりゃあ何やってんだ。かゆいんだよお前ら!!」
そして自分の持っていた荷物をどさりとのぞみに持たせ、譲子の手をとって歩き出す。
「に、兄さん!」
「のぞみは荷物持ちがしたいそうだから、これで満足だろ?」
「将臣くん、ひどいなあ」
と文句を言いながらものぞみはくすくすと笑って有川兄妹の後をついていく。
「あーあ、もうっ。せっかく先輩と…」
将臣に引きずられて歩きながら譲子が文句を言う。
「ん?先輩と、何だよ」
「…言わない」
真っ赤になって俯く譲子に思わず将臣から微笑みがもれる。
「まあ、邪魔したのは悪かったけどよ。見せ付けられるこっちの身にもなれよ」
「う、うう。…あ、そうだ兄さん、いっひりーべでぃっひ、って、どんな意味?」
ごっ
「痛たたっ、急に止まるなよ…背中に顔ぶつけたじゃないか。止まるなら手を離すとか何とか」
「それ、誰に言われた」
「え?さっき先輩が歌ってくれたんだけど…何か学校で習った歌だって言ってたから兄さんも知ってるのかなと思って」
きょとん、と何も知らずにたずねる譲子の顔を見てから、後ろを歩いて来るのぞみを睨みつける。
のぞみは軽く肩をすくめて、くす、と笑った。
「…日本に帰ったら俺の音楽の教科書でも見とけ」
「え?忘れたのか?」
「そういう事にしておいてくれ」
誰が親切に教えてなんかやるか!
written by sava
イラスト & 文 sava
2007.02.26日記 Ich liebe dich 加筆修正