見返り美人



街中に貼られた文化祭告知のポスター。
日頃忙しく街を行き交う人々もポスターの中から微笑む見返り美人の姿にしばし足を止めた。

そしてここにも、このポスターに吸い寄せられるように近づく一人の赤い髪の少年の姿があった。

「・・・マジ?」

一心不乱にポスターに見入る少年に、通りすがりのおさげ髪の少女が声をかけた。

「あれ、ヒノエ?」
「・・・」
「ヒノエってば」
「・・・」
「ヒノエ!」
「あ、譲子」

何度目かの少女の問いかけにやっと気づいて少年が声をかけた少女の方を振り返った。

「・・・珍しいな。ヒノエがそんなに無防備だなんて。一体、」

何を、という言葉は少女の喉に飲み込まれた。かわりに苦いため息がひとつ喉から吐き出される。

「・・・その、ポスター、か」
「これ・・・のぞみだろ?」
「・・・うん」

ぴゅー、と少年が口笛をひとつ吹いた。

「やっぱりな。アイツがよくこんなモン引き受けたな。すっげぇ似合ってるけど」
「・・・」
「アイツやっぱりちょっと手が切れるような美人だよな。まさかこんな艶姿拝めるとは思ってもいなかったけど」
「・・・」
「コレ撮る時見たかったな。さぞかし綺麗だったんだろうな。譲子お前見たのか?」
「・・・」
「譲子?」
「・・・」

少女の表情が曇るのを見て少年ー・・・ヒノエが声をひそめた。

「どうした?」
「・・・や」
「?」
「いやだな、って言ったんだ」

「先輩のこと興味本位で見るの、やめてくれないか」
「譲子」

ヒノエが目をみはる。

「本当は先輩こういうの嫌いなのに・・・無理してるのに、皆好き勝手な事ばっかり言う」
「・・・」

「無理して笑ってる。そんな先輩の顔なのに皆は綺麗って言う・・・」

「ごめん、譲子」

ふるふると譲子が頭を振るのに合わせておさげ髪も揺れる。

「ううん・・・こっちこそごめん、勝手なこと言って。でも先輩の友達でもあるヒノエには、そういう事言って欲しくなかったんだ」

「悪い・・・オレちょっと無神経だったな」

「お願い、ヒノエ。先輩の前ではそういう事言わないでね。約束だよ」

必死な表情で訴えてくる譲子にちくり、とヒノエの胸が痛んだ。でもそんな事はおくびには出さずにヒノエは譲子に言った。

「分かった。約束する。アイツの性格は分かってるからな・・・お前の次くらいには、な」

ヒノエの答えに譲子はそれまでの硬い表情を少しやわらげた。

「・・・よかった。それならいいんだ。先輩、ヒノエの事友達だよって言ってたから、ヒノエもそうならきっと喜ぶと思うんだ」

「譲子」

「本当はすごく、不器用な人なの。傷ついてるくせに笑ってみせたり。そんなことしなくてもいいのに」


「まあ・・・ある意味笑えるけどな」
「?」

きょとん、とした顔の譲子にヒノエが言う。

「だってこのポスター見た奴はこの美女に一目会いたくて文化祭行くわけだろ?」
「うん?」
「で、行ったところで・・・でかいアイツがいるわけだ」
「あ〜、ああ・・・」
「アイツ実際は180センチ近い大男な訳だし、コレは詐欺罪で訴えられるんじゃねぇか?JAROに電話されても仕方ねぇよな」
「ぷっ。そ、それはそうかも・・・」

その場面を想像したらしく譲子がくすくす笑う。

「な?だからお前もあまり気にすんなよ。のぞみだって多分色々考えてこういうの引き受けてるはずだぜ。コレ見てお前がそんな顔してるなら余計アイツは気にするぞ。・・・なにせ不器用だからな」
「そ、そうかな」
「ああ。野郎ってのはカッコつけなんだよ。お前もそんな顔してる暇あったらゲラゲラ笑い飛ばしてやれよ。そのほうがのぞみは喜ぶぜ、きっと」
「・・・うん」
「オレも笑い飛ばしてやるからな」
「ありがと、ヒノエ」
ヒノエと譲子は、どちらからともなく貼られたポスターに目をむける。
優しい目でポスターを見つめる譲子の横でヒノエは一人ごちる。
・・・まあ、1枚くらいパクる位は大目にみてくれよな。譲子には悪いけどこんな美女はなかなかいないんだぜ。

街中に貼られた文化祭告知のポスター。
日頃忙しく街を行き交う人々もポスターの中から微笑む見返り美人の姿にしばし足を止めた。

この文化祭ポスターはある意味大失敗だったともいえる。貼っても貼っても盗まれてしまたので。
それほど「彼女」の微笑みは美しかったので。

天下無双のタラシまでも魅了するほどに。



イラスト & 文 sava  2006.09.30「文化祭ポスター」加筆訂正