譲葉の君
「やあ、敦姫」
「ヒノト。君も来ていたのか。」
敦姫がにこりと笑う。
この優美で愛らしい姫君は、ヒノトの幼馴染でお気に入りだ。
「敦盛もひさしぶりだな。相変わらず麗しいことだ。」
「………ひさしぶりだな、ヒノト。それはほめているのだろうか。」
「もちろん。軟弱な男は嫌いだが、お前は強い上に美しいv」
「………ありがとう…、といっておく。」
「ふふ。そういえば、敦姫、譲にあったよ。」
「譲に?ああ、彼女は西高の生徒だったな。」
「そ。でもって、彼女ご自慢の東高の従姉妹姫にも…ね。」
ヒノトがくすりと笑う。
「譲に似た、清浄な気を放つ愛らしい姫君だったよ。まさか、譲葉の加護をもつものが、二人もいるなんてね。」
ヒノトは、あれでも、ああみえても、譲葉神社の跡取り娘。高い霊力を幼いころからの修行で自在にした斎姫だ。
「…譲葉…譲子殿のことであろうか。」
「おや、敦盛。知っているのか?お前も隅におけないな。」
その言葉に、敦盛がため息を漏らす。
「…そうではない。彼女は東高では有名だ。愛らしい姿に、はっきりとした物言い。陽だまりのような笑顔は皆を魅了する。」
その言葉に、ヒノトが口笛を吹く。
「へぇ、敦盛にそこまで言わせるとはね。」
「それに、有川生徒会長の妹で、春日副会長の恋人でもある。」
「恋人!?そんなのが居るのか!?」
ヒノトが目を見張る。
「それほど驚くことか?」
「あ…いや。」
ヒノトが苦笑した。
…あの、ヒノエが…恋人の居る女を構うとは思えないのだけれど…。
それとも、それだけ本気…ってことか?
それに、あのときの顔…。
………あれ?
「春日…?」
「ああ。春日望(のぞみ)副会長だ。」
「もしかして、のぞむ…西高の生徒会長の…」
「確か従兄弟にあたると聞いた。」
「ふーん。似てるのか?」
「生徒会の役員たちが言うには、顔はそっくりだが、性格は正反対だそうだ。」
「なるほどねぇ…」
それは、ヒノエにしてみれば、複雑ってか。
譲がのぞむに抱きついたとき、自分がどんな目で見ていたか、自覚していないんだろうな。
あの、本気を知らない遊び人もどきは。
いや…知らなかった、というべきか。
「ヒノト?どうかしたのか?」
知らず苦笑を作っていたヒノトは、敦姫に言われて我に返った。
「なんでもないよ。ただ…女でよかったと思ってね。」
「?普段は男に生まれたかったといっていなかったか?」
「ああ。男なら敦姫を嫁にもらえるからな。」
「また、そういうことを…。」
「ふふ。」
もしも自分が男だったら…。ヒノエと同じように、譲にほれていたかもしれない。
今でさえ、彼女にほれているのだから。
あの、か弱くみえて、誰よりも強い姫君に。
だから、女でよかった。
譲の親友を名のれるのだから。
あの、のぞむにさえも認めさせるほどに。
ま、お前は頑張ってみろよ、ヒノエ。
お前は、男なんだから。
ヒノトは心のなかで、呟いた。
優しい強さ
「わっ、ヒノト。行き成り引っ張るな。」
「抱き寄せた、といって欲しいな。ホント、敦姫は可愛いな。」
(二人とも相変わらずだな。)
「両手に花ってな。」
(こういうところも)
敦盛はため息混じりにヒノトを見た。
だが…。こうして触れられると、彼女が女性であることを思い知る。
未発達な少年のように見えるが…そう、見せているが。
男性のそれとは異なる骨格、筋肉、体格。
何故彼女が男性のように振舞うのかは分からぬが…。
「敦盛?私の顔に何かついているか?」
「…いや、機嫌がよさそうだと思っただけだ。」
「そりゃぁ、美しい花を両手に抱えているんだ。機嫌も良くなるさ。」
そう笑う顔は、本当に楽しそうで。
まぁいいかと思ってしまう。
彼女が女性らしくしたならば、敦姫に勝るとも劣らぬ美姫になるだろうに。
けれど、それを彼女に告げるのは、なぜかためらわれる。
ひどく、傷つけてしまうような気がして…。
ゆるりと首を振れば、ヒノトと敦美の不思議そうな顔。
「それにしても、兄上は遅いな。」
「なんだ、経正も来ているのか。って、当たり前か。あのブラシスコンが、お前たちだけにするわけがないか。」
「ヒノト…」
敦美がヒノトを睨むが、ヒノトは肩をすくめただけ。
だが、先ほどよりも嬉しそうなヒノトに、敦美もそれ以上はいわなかった。
ヒノトは兄上を嫌ってはいない。
むしろ、慕っているように見える。
そういえば、ヒノトが以前言っていたな。
兄上は、自分が知る中で2番目に強い、と。
彼女は強いものを好む。
だから、兄上のことも嫌いではない。
そう言っていた。
一門のものは、兄上を軟弱だと評すのに、彼女はその兄上を強いという。
私のことまでも。
軟弱な男は嫌い
見せかけの強さを振りかざし、私に依存しようとする男
私を支配しようとする男。
情けなさすぎて怒る気にもなりはしない。
この優しい兄弟は、だれよりも強い。
その優しさは知れ渡っているのに、その強さを知るものはほとんど居ない。
それが私には不思議で、そして少しだけ嬉しいのだ。
君たちの強さを、独り占めしているようで。
君たちの優しさは、強さに支えられたもの。
それが、愛しくてたまらない。
君たちに 譲葉の加護を
written by sou
イラスト sava 文 総 2006.10.16-17日記
譲葉の君、優しい強さ 加筆修正