麗しき生徒会長挨拶



抜き身の刃物のような鋭利で怜悧な空気を纏う美女の登場に、開会式会場は水を打ったように静まり返った。
ポスターの優美な美女ではなく、バックの黒い暗幕に浮き立つ赤い着物の鮮烈かつ妖美な美女。
カメラを構えていた者たちも、ぽかんと口を開けて固まっていた。
のぞむが淡々と開会の辞を告げる間、誰一人として動けなかった。呼吸をすることさえ忘れてしまいそうな、張り詰めた空気。それを作っているのが、目の前の美女だ。
「これを持ちまして、開会の辞と代えさせていただきます。これから○日間、文化に触れ、交流をはかり、存分に楽しんでください。」
にこり
わずかに浮かんだ笑みに、皆が皆、我を忘れて魅入っていた。
のぞむが舞台から消えるや否や、割れるような拍手と歓声が響き渡る。
キャーだのギャーだの、悲鳴や絶叫に近い歓声。
怜悧な空気…というより、鬼気をほとばしらせて、一般人の動きを封じ、写真を取らせなかった生徒会長。
あまりの美しさと迫力に、写真を撮ることを忘れた者たちは数刻後に深く後悔したという。



「先輩、お疲れ様です。」
のぞむが生徒会室に逃げ込めば、譲が笑顔で出迎えた。
「譲ちゃん。髪、頼めるかい?」
「はい。」
譲は椅子に座ったのぞむの後ろに回り、髪飾りを一つずつはずすと、丁寧に櫛で梳きはじめた。
「まさか、先輩まで女装するとは思いませんでした。」
「あんな噂が流れてしまったからね。期待に答えないと。」
苦笑する譲に、のぞむが笑顔で答えた。
「…嫌じゃ、ないんですか?」
「女装といっても、着物だからね。さすがにうちのセーラー服を着ろって言われたら抵抗あるけど。着物じゃ、男女の違いなんて帯と色目が派手なくらいだろ?」
くすくすと笑う望に、譲も笑う。
「せっかくのイベントだよ。楽しまなきゃ。これで、今年の文化祭は成功間違いないよ。」
(はぁ〜。先輩って大人だ。)
譲が感心する。
(さて、俺がここまでやったんだ。もちろんお前も尽力するよな。のぞみ。)
ここには居ない従兄弟を思い、のぞむはにやりと笑った。
「やるなら、徹底的に。これくらい、して見せろよな。」
「?先輩?何かいいました?」
のぞむの呟きをきいて、譲が首を傾げる。
「なんでもないよ。早くこの重たい着物を脱いで、あちこち回ろうか。」
「…でも、仕事はいいんですか?」
「俺の仕事はここまで。その代わり、開会式を完璧にこなす約束だったんだよ。もちろん、譲ちゃんも、一緒だよ。」
「えぇ!?私何もしていませんよ?」
「こうして俺の準備と片付けを手伝ってくれてるだろう?だから大丈夫。あとは他の役員が責任を持つって言ってくれたから。」
もちろん、のぞむがそう約束させたのだが。
「でも…」
「それだけ、これまでの仕事を評価してくれたんだから。自信持って。」
化粧をしたままの望に顔を近づけられ、譲は赤くなって上ずった返事をした。
「は、はい!」
(うぅ〜、先輩、綺麗過ぎるよ〜。心臓、もたない。)
そんな譲の思考を呼んだかのごとく、こちらを見上げてのぞむが言う。
「ね、ゆずちゃん。俺とのぞみ、どっちが綺麗だった?」
「そんなの…」
じぃっとくだんの美女に見つめられ、譲の顔に熱が集まる。
「どっち?」
「……………先輩…です。」
「ありがとう。」
ふわぁと花がほころぶような笑みを浮かべ、のぞむが伸び上がる。
ひょいと譲の後頭部に手を添えると、ちゅ、といつものようにキスをした。
「譲ちゃんにほめてもらえるのが、一番嬉しいよ。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
譲が唇を抑えて真っ赤な顔で固まった。
その顔を微笑んで見ていたのぞむは、譲と向き合うと、そっと譲の手をはずさせた。
「これだけ頑張ったから…、譲ちゃん、ご褒美、くれる?」
「せんぱい…?」
ゆずるの頬をやさしくなで、のぞむはいつもより長く唇を重ねた。



「あれ?譲、りんごあめでも食べたのか?」
「は?りんごあめなんか売ってるところ、あったか?」
譲子にいわれ、譲が不思議そうに聞き返した。
「いや、だって、その唇…」
と、そこまで言って、譲子がのぞむを睨む。
「望兄さん…」
「あそこまでやったんだ。とびきりの報酬をもらうさ。」
でなきゃ、やってられないだろ。けろりと言ってのけるのぞむ。
「報酬って…」
のぞみがのぞむをジト目で睨めば、のぞむのからかう様な笑みが帰ってきた。
「お前も、譲子にもらっとけば?」
「のぞむくん!!」
「先輩をのぞむ兄といっしょにするな!」
真っ赤になって怒鳴る二人。にやりとわらうのぞむ。
知らないうちに所有印をつけられた譲は、不思議そうに3人をみていた。



written by sou

イラスト sava  文  総  2006.10.02
幻の美女 加筆訂正