「やっと見つけたぜ!」
「ぎゃーっ、ひ、ひのえっ!?」
もがもがもがもが
(離せバカ!!先輩の前でなにするんだっ)
「うわっ、ヒノエ君、びっくりしたなぁ」
「あー会えないかと思ったぜ。結構盛況だな」
「うん、おかげで大忙しだよ〜〜」
もがもがもがもが
(せっ、先輩もこの状況で、何普通に話してるんですかっ!)
ヒノエも文化祭に遊びに来たようです。
written by sava
ふたつの緑
「ゆず子に何してるんだよ!」
譲子を抱きしめていたら、行き成りその体を後ろから引き剥がされ、譲子がその相手の腕の中に収まる。
怒りと共に振り返り、ヒノエは相手を睨みかけて固まった。
そこにいたのは、譲子と同じ緑の髪、緑の瞳。同じような愛らしい顔立ち。
けれどその優しい緑の瞳には怒りが浮かんでいる。
ヒノエはその顔に覚えがあった。
「大丈夫か?譲子。」
「あ、うん。」
譲の剣幕に、譲子の方が驚く。
譲は譲子を抱きしめたまま、のぞみにまくしたてた。
「のぞみくん!ゆず子が絡まれてるのに、なにやってるのさ!!」
「あ、いや、彼は…」
「譲子が他の男に抱きつかれてて、平気なのか!?」
「え…と。ごめん。」
「私に謝っても仕方ないだろっ!」
譲の勢いに押され、説明も出来ずにのぞみが謝る。
それでも譲の怒りはおさまらない。
大事な大事な従姉妹が襲われて(譲視点)いるのに、肝心の恋人(こちらも譲視点)は何もせずつったってる(一応挨拶していたのだが、譲には聞こえていない)だけ。
なにを考えてるんだよ!そんなヤツに譲子は渡せないぞ!
譲子はいつから譲のものになったのか。
つい冷静に突っ込みたくなるようなことを考える譲。
「あ〜。ゆず、ゆず、落ち着いて。」
譲子が抱きしめられたまま、譲の背中をあやすようにぽんぽんとたたいた。
譲はまだ納得できないようで、譲子を見て言う。
「だって、譲子!」
「ん、いや、これ、一応私の友人だから。」
「ひどいな譲子。一応かよ。」
「一応だ。」
ヒノエが横から口を挟めば、じろりと譲子がヒノエを睨む。
のぞみの前でしがみつかれた恨みはまだ晴れないらしい。
「…そう…なの?」
先ほどまでの勢いはどこへやら。譲子にいわれて、譲はそっと三人の顔を見比べた。
「………あ…!」
ヒノエをじっと見ていた譲が、ぱっと手を口元に当てた。
「…いい人、だ。」
「は?」
譲の呟きに、譲子が怪訝そうに譲を見る。
「覚えててくれたのかい?嬉しいね。」
「う…ごめん。譲子が嫌がって見えたから…てっきり…」
ヒノエが微笑んで言えば、譲が羞恥に頬を赤くした。
「構わないよ、従姉妹思いなんだね。」
「…あう…」
顔を赤くして頭を抱える譲に、譲子が言う。
「これのことなら気にしなくていいから。行き成り後ろから抱きつく馬鹿が悪い。
それより、譲。これを知ってるのか!?」
「これって、ひどいな譲子…。」
「おまえなど、これで十分だ!で、ゆず。」
女癖の悪い友人が譲と知り合いだとしって、心なしかあせって譲子が言う。
譲は思い出すように考えながら言った。
「え…と、知ってるって言うか…。まえに駅前の店で会ったことがあるだけだよ?」
「それだけか?」
「ん〜〜〜。」
譲がちらりとヒノエを見る。ヒノエは苦笑しているが、どこかバツが悪そうだ。
譲は譲子と目を合わせると微笑んで言った。
「ただ、そのときに優しいことを言ってくれただけ。」
ふわり。
花開くような笑み。
譲の笑顔のなかで、譲子が一番好きな、温かな笑み。
…それが、このタラシのために…?
静かな、嫉妬のような怒りが譲子の中を駆け巡る。
「本当に?」
「うん。」
にこにこと笑う譲と対照的に、怒りが隠しきれない譲子を見て、ヒノエが苦笑する。
のぞみはいまだ展開についていけずに呆然としていた。
「あ、いけない。そろそろ先輩が戻ってくる。これ、二人に差し入れ。」
譲が慌てて袋を差し出す。中身は冷たいお茶と、たこ焼きに大判焼き。
「どっちも美味しかったよ。じゃ、また後でね。」
のぞみと譲子に手をふり、ヒノエにもう一度だけごめんね、といって立ち去る譲。
「へぇ…、いい女だね。」
自分が譲子を恋慕しているだろうことを知っていて、譲子と譲を間違えた件を伏せてくれた。
彼女ものぞみの味方だろうに。それでも自分に気をつかってくれたのか。
ヒノエの口元に笑みが浮かぶ。
それに過剰反応して、譲子がヒノエをじろりと睨んだ。
「ヒノエ…。」
「何もしてないよ。今はおまえだけだっていってるだろう?」
譲子の低い声に、ヒノエが肩をすくめた。
「ゆずに変なことするなよ。あいつは私と違って可愛いんだから。」
自分なら、ぴしゃりと断るようなことでも、譲は受け入れてしまう。
譲は優しいから、言葉をそのまま受け入れて、信じてしまうだろう。
譲子の言葉に、ヒノエはきょとんとしたあと噴出した。
「なっ!ヒノエ!」
「ご、ごめん…はっ、ははっ。あ、あんたたち、そっくり!」
腹を抱えて笑うヒノエを、譲子はじろりと睨みつけ、のぞみは不思議そうに見ていた。
『私に譲子を求められても困るよ。あんなに可愛くはなれない。』
譲がヒノエと出会ったときに、譲が言った言葉。
お互いがお互いを可愛いといい、相手のために怒って、庇いあって…、ほんと、そっくりだ。
くつくつと、いつまでも笑うヒノエの頭を、譲子は思いっきり殴りつけた。
「あ、名前を聞くの、忘れた。」
「誰のだい?」
はた、と譲が思い出したように言えば、のぞむが不思議そうに譲の顔を見る。
「えっと、譲子の友達です。以前町で会ったことがあって…」
「へぇ………男?」
「はい。」
譲の返事を聞いたとたん、のぞむの周りの温度が下がった。
「どんな?」
「赤い髪の…綺麗な子だったなぁ。譲子に行き成り抱きついてるから、びっくりしました。」
「へぇ。」
今やのぞむの周りは氷点下。なのになぜ気付かない、譲!
「それは…俺のほうからも、言っておくかな…。いろいろと。」
「?そうですか?」
何をだろうと思いつつ、先輩は優しいからなと場違いなことを考える譲。
「ま、そんなこと気にせずに。次はどこへいこうか?」
(のぞみ…てめぇがしっかりしてないからだろうが。
あれほどタラシを近づけるなっつったのに。)
譲にさわやかな笑みを見せながら、心の中でのぞみを呪うのぞむであった。
written by sou
イラスト sava 文 sava & 総 2006.10.10日記
ゆーずるこっ!! 優しい緑 加筆修正