ライバルは一人だけ
「先輩、ほら美味しそうですよ。へえ〜大判焼きの出店やってるところもあったんだ」
譲からの差し入れの袋を楽しそうに覗き込みながら譲子が言った。
「・・・」
のぞみは譲子の言葉にはっとする。
「でも誰がこんな焼き型持って来たんでしょう・・・レンタルかな・・・」
譲子が大判焼きの焼型に思いを馳せている間にのぞみがヒノエにそっと近づき何か耳打ちをする。
ヒノエが驚いたように目を瞠る。のぞみはにこりと微笑んだ。
ヒノエはしばらくのぞみの顔をしげしげと眺めていたが、
のぞみの笑顔が変わらないのを見て呆れたような顔をする。
そんな2人のやりとりに気づいていない譲子。かなり大判焼が気になるらしい。
「譲子ちゃん、頼みがあるんだけど」
「はい、何ですか?」
譲子の思考を中断するようにのぞみが声をかける。
「あのね、ほかの役員の皆にもなにか差し入れ買ってきて欲しいんだけどいいかな?」
「ああ、そういえば皆忙しくてお昼もろくに食べてないですよね。わかりました。行って来ます」
「ヒノエ君も悪いんだけど荷物持ちとして譲子ちゃんと一緒に行って貰っていいかな?」
「・・・ああ。いいぜ」
「じゃ、これ軍資金ね・・・頼んだよ」
「はい」
手を振りながら文化祭本部へと戻るのぞみを見送って、譲子とヒノエは出店のほうへと歩き出した。
「さて何買っていこうかな。ええと確か3年生が駄菓子屋とかやってたよな。焼そばとかも出てたはずだけどホットドックみたいにすぐ食べられるものの方がいいかな」
「・・・ふうん?それだけ?」
「それだけって?ああ、飲み物もいるか」
「そうじゃなくて。・・・相変わらずつれない姫君だな。せっかくの文化祭なのに案内してくれねぇの?」
「はあ?」
「ほら、あっちの教室何か賑やかじゃん。あれ何やってんだ?・・・ほら行ってみようぜ」
「えっ、ちょ、ちょっとヒノエ!わっ、離せよっ」
「ほらほら、行くぜ!」
「わ〜〜」
文化祭執行本部のテントに戻ったのぞみを見て将が声をかける。
「よ、おつかれさん。・・・あれ譲子はどうした?」
「ん。ちょっとお使いに行ってもらったんだ。1時間くらい休憩がてらあちこち見て回ってもらおうと思って」
「あいつがお前の側を離れるとは・・・おい、のぞみ、お前何したんだ?」
にやにやしながら将が聞いた。
「何もしてないってば・・・ヒノエ君が来てたから一緒に行ってもらっただけだよ」
「ヒノエってあのナンパ野郎、か。お前何考えてんだ譲子もよくそんなのにくっついて・・・」
そこまで言って、はた、と将は言葉を切る。
あの一途な義妹の性格からいって、何があってものぞみの側を自分から離れたりすることは絶対無い。ましてや他の男となんて論外だ。
とすれば、答えは簡単だ。
「のぞみ。お前が仕組んだな」
「だって譲子ちゃん全然休憩とらないんだもん。高校に入ってはじめての文化祭が雑用だけで終わったら可哀想だよ」
「・・・」
それはつまりのぞみが全く休憩していない、という事だ。
のぞみが休憩を取らない限り譲子も休憩なんて取るわけもなく。
将はぽりぽりと頭をかいた。
「あ〜・・・そこまで気が回らなかった。悪ぃな」
「ボクもだよ。さっきまで気が付かなかった。危なく譲子ちゃんまでボク達のペースに巻き込むところだったよ」
「いや、俺が言いたかったのはそういう事じゃねぇよ」
「?」
「・・・お前も譲子と一緒に文化祭見て回りたかったのに、俺に付き合わせちまったな。適当に休んでよかったんだぜ」
「会長をさしおいて休める副会長はいないよ」
「どうかな?西高は会長自らサボりだぜ」
「あはは。すごいよね、のぞむ君は」
「あははってお前な」
「だって本当にすごいんだもん。確かに文化祭当日はサボってるかもしれないけど、今までの段取り、企画、両校のメインイベントの振り分け、ほとんどのぞむ君が考えて決めたんだもん。ここまで詰めて考えてくれていたらお休みさせてあげないと。あとの実行はボク達が頑張るだけ、でしょ?」
「まあな。実際よく考えてある。初めての東西合同の文化祭とは思えないくらいスムーズに行ってる」
「ね。おまけにあの女装で会長挨拶させちゃったし」
「・・・そこはお前が責任感じる筋合いじゃねえぞ」
「ふふ、そうかな」
午後に入り人出もようやくひと段落したらしく、本部への緊急連絡も途絶えた。
行き交う人々を眺めながら2人で差し入れの大判焼をぱくつく。
「遅いな、譲子は」
「ああよかった〜ヒノエ君なら大丈夫だと思ってたけど上手く連れまわしてくれてるみたいだね」
「・・・お前はそれで平気なのかよ?」
「何が?」
「譲子が他の男と一緒にいて平気なのかって聞いてんだよ」
「・・・人による、かな」
「あ?」
「譲子ちゃんと一緒にいるのが平気じゃない人は一人だけいるけどな」
「そうなのか?」
「うん。これがまたいい男で、くやしいけどボクじゃ逆立ちしても敵わなくて。でもその人誰よりも譲子ちゃんの近くにいるから、ボクはいつも平気じゃない」
「そんな奴がいるのか?譲子に?」
「うん」
「・・・あのヒノエって奴じゃないんだな」
「ヒノエ君もいい男だけど、ちょっと落ちる、かな」
「そんな奴うちの学校にいたか・・・?」
ぐるぐると知ってる野郎どもを頭に思い浮かべている将臣を見て、のぞみはくすり、と笑う。
(ライバルは・・・将臣君ひとりだけ、だよ)
written by sava
優しさの形
「…あいつの優しさって、どこかぼけてるんだよなぁ」
「臣?」
「ん〜、なんでもない。」
白龍に問いかけられ、臣がひらひらと手を振る。
視線の先には譲子とヒノエ。二人仲良く…少々譲子が振り回されているようだが…出店を巡っている。
真面目な譲子が仕事をサボるとは思えない。
ましてやのぞみと離れるとも思えない。
ってことは、のぞみがしくんだのだろう。
譲子を休ませてやるために。
「どうせなら、のぞみと一緒のほうが、譲子も喜ぶだろうに。」
損なヤツ
臣はひとりごちた。
「さて、白龍。俺はこれから休憩だ。すきなところに、連れて行くぜ。」
黒龍と朔を気遣って、一人臣のところにいる白龍にそう告げる。
自分も回りたいだろうに、一人大人しく臣のところで座っている白龍。
結局、白龍の優しさにまけて、仕事をしながら託児所をしていた臣。
「いいのかい?休憩なのだろう?」
「いいんだよ。ずっと俺のところにいて、退屈だったろう?」
「そんなことはないよ。いろいろと初めてみるものばかりで、面白い。ね、タマ。」
白龍が膝の上の猫をなでて、にこりと笑う。猫は返事をするようににゃ〜と鳴いた。
「なら、いいが…。」
「そうだ。お土産を買っていかなくちゃいけないんだ。なにがいいかな?」
「土産ねぇ。くいもんくらいしか無いぞ?」
「ん。それでいいよ。」
「それでって…。」
臣が苦笑する。
二人は連れ立って屋台のほうへと歩いていった。
written by sou
ヒノト登場(二人の朱)に続く
文 sava & 総 2006.10.10-11日記
ライバルは一人だけ、おまけ 加筆修正