わすれじの 顔
アルバイト募集
業種 フロアスタッフ (1名)
年齢 16歳以上 未経験者可
週3日以上勤務 土 日 祝日 OKの人歓迎
時給1500円〜
制服 まかない有り
他 応相談
まずは履歴書をお持ちください。
cafe far away
「はい。有川です。…わかりました。明日ですね。はい、では17:00に伺います。」
「ん…?採用通知?明日、最終面接ねぇ…ふつう、こんなに間際な日にちで、郵送を送るか?」
シャラーン
軽快な鈴の音がして、cafeのドアが開く。
「え?」
「あれれ?」
二人並んでカフェのドアをくぐれば、オーナーたちが固まった。
「「ド、ドッペルゲンガー?」」
いや、ありえねぇから
将と臣は二人は同時に突っ込んだ。
「有川くん?」
「「はい」」
「将臣くん?」
「「はい」」
「有川 将臣?」
「「はい」」
無意味な応答を繰り返す、二人のオーナーと二人の将臣。
片や固まったまま二人を凝視し、片や履歴書をせわしなく見比べる。
目の前の挙動不審な大人たちに、将は笑いをこらえ、臣はにやりとほくそえんだ。
ドアの前で互いを見つけたときから、この程度は予測済み。
一方オーナーたちは白と黒の頭をつき合わせて、二つの履歴書の相違を探した。
よくよく見れば、両親の名前が違う。住所が違う。東と西で高校が違う。
けれど…
「なんで家族構成までいっしょなんですか。」
「「人の家庭にけちをつけるな。」」
「「すみません」」
二人の少年に同時にステレオで切り返されて、二人の大人はこれまたステレオで謝った。
「じゃぁ、どっちも将臣なんだ。」
「まぁ、な。俺は将で。」
「俺は臣って呼ばれてる。」
白龍の言葉に、二人がざっくばらんに答えた。
すでに面接ではない。友人との歓談のノリだ。
あんな対応をしてしまったので、敬語などいまさらだ。
白龍も黒龍も、かまわないと言ったのを受け、バイトはどうでもいいやと、タメ語を話す二人。
もともと募集は一人だったのだ。
互いに奪い合う気はないし、かといってどちらかが選ばれるのも、なんだかなぁと言った気分だから。
「従兄弟で同じ名前って珍しいね。」
「誕生日がかぶっちまったせい。」
「は?」
「爺さんが、自分の最初の男の孫に将臣ってつけると言い張ったんだよ。」
「で、親父たちがそれを律儀に守ったわけだ。」
「お互い出産予定日より早く生まれたせいで」
「互いに相手はまだ生まれていないだろうと、将臣と名づけてしまったわけ。」
「病院が違ったからな。」
「そこまで連絡がまわらなかったってのもある。」
「準備が良くてさ。出生届け、生まれた翌日にさっさと出しちまった。」
「普通は1週間くらいかかるもんらしい。」
交互に二人が説明する。
そのテンポの良さ、タイミングの良さ、練習したんじゃないかというような役割分担。
まるで映像がぶれているように見えて、黒龍は思わず眼鏡をかけ直した。
「…おもしろい!」
「「は?」」
「そうだね。二人ともいいよ。」
「さて、白龍のOKもでたことだ。仕事は明日から頼めるかな?」
「「え」」
今度は将臣たちが目を丸くする番だった。
「いいのかよ、そんなんで。」
「いいんだよ。もともとどちらも良いとおもったから、採用通知をしたのだから。」
「二人ともしっかりしてるようだからね。仕事もしっかり頼むよ。」
にこにこと笑うオーナーたち。
『どちらも良い』
その言葉に、将臣たちは少なからず喜びを覚えた。
『どちらでも良い』とは言われ続けたが、どちらも、両方とも望まれたことなど、無きに等しい。
将臣たちの顔に、知らず笑みが浮かぶ。
ほんのりと照れたような、それでいて嬉しそうな、穏やかな笑み。
それを見て、白龍黒龍もまた優しげに微笑んだ。
見かけによらず礼儀正しい二人の将臣は、計ったようにそろって頭を下げた。
「「よろしくお願いします。」」
cafe & bar「far awey」
あなたの心に 一滴の潤いを
イラスト sava 文 総 (2006.09.21日記 10月加筆訂正)