懐中時計 



「ありがとうございました。」
 店員の声に送り出され、麗慶は店を出た。
 目指すは駅前の喫茶店。



 待ち合わせの時間より少し早くついた麗慶は、目的の喫茶店に入った。
 シャランと音を立ててドアベルが鳴る。
 キョロ、と辺りを見回すが、相手はまだ来ていないようだった。
 窓際の席に座り、ひとまず温かな紅茶を注文する。
 長い正月休みも今日で終わるところが多いようで、あたりは少しずつ日常の雑多な音が聞こえ始めていた。
 仕事始めのせいか、いつもは賑わっているこの店も、今日は少しだけ静かだ。
 麗慶が紅茶に口をつけながら、ぼんやりと外を見ていると、遠くに待ちわびた金色が見えた。
 夜でも輝く金の髪。背が高いせいもあり、その明るい色は遠くからでもよく分かる。



 シャランと、再び涼やかな音がして、リズヴァーンが入ってきた。
「すまぬ。待たせたようだな。」
 向かいに座るリズヴァーンに、麗慶が微笑んだ。
「いいえ、時間ちょうどですよ。」
 そうか…と呟いてリズヴァーンも笑った。
「弁慶は職員会議だったな。九郎は…」
「顔を出した剣道部の人たちに捕まっていました。この分だと、二人とも夜中近くなってしまうかも…。」
 いやに楽しそうな笑顔で告げた弟の顔を思い出しながら、麗慶が言う。
「ああ、言葉を預かってきました。
『リズ先生、お誕生日おめでとうございます。後ほどお伺いしますので、そのときに改めて。』」
 リズヴァーンはその言葉に、苦笑する。
「誕生日で騒ぐ年でもないのだがな。」
「それでも、めでたいことには変わりありませんよ。」
 にこりと麗慶が言えば、リズヴァーンも苦笑しつつ頷いた。
「それにしても、ディナーはここでよかったのですか?」
 ちゃんとしたレストランにでも、と思っていた麗慶は、不思議そうにリズヴァーンを見る。
 リズヴァーンの誕生日に、本人の家で手を煩わせるのも…ということで、外食にしようと話していたら、当のリズヴァーンがここの料理を食べてみたいと言い出したのだ。
 ここ『cafe far away』に。
「ああ。あののぞむがうまいと言っていたからな。」
 リズヴァーンが言うのを聞いて、麗慶はなるほど、と頷いた。
 もともと辛口の上に、あの譲の手料理で日々舌を肥やしているのぞむが褒めたのならば、食べてみたいと思うのも無理は無い。
「格式ばった料亭などは苦手だ。こういう雰囲気のほうが食が進む。」
 リズヴァーンが、出されたコーヒーを口にしながら、そう告げた。
「そう…ですね。何にします?軽食か…もうすこしすれば、ナイトメニューが始まりますが。」
 そちらはコースもありますよ。
 麗慶が時計をみながら、告げる。
「では、それにするか。」





 食事を終えて、二人は外に出た。正月のような喧騒はないが、まだ人の多い道を歩く。
「さすがに冷えるな。」
 麗慶を促して、リズヴァーンは駅前の駐車場に行く。
 九郎と弁慶がおそらく夜半に鬼堂邸に訪れ予定なので、弟二人が暴走(先生の前でそれはないと思うが)しないように、麗慶は監視にいくつもりだ。
 車に乗ると、麗慶はそっとかばんから小さな包みを取り出した。
「…あの、リズ先生。」
 麗慶に呼ばれ、ん?とそちらを向けば、麗慶の照れたような笑顔。
「お誕生日おめでとうございます。」
 リズヴァーンはため息混じりに笑った。
「このようなことは、せずともよいというに…」
「私が、贈りたかったんです。」
 ご迷惑でしょうか…と続ける麗慶に、リズヴァーンは笑って頭を撫でた。
「そうではない。…ありがたく、頂こう。」
 嬉しそうに微笑む麗慶から包みを受け取り、リズヴァーンが中身をあける。
 出てきたのは、懐中時計。
 裏側にはリズヴァーンの名が彫られている。
「………共に、時を刻む…か。」
 リズヴァーンが小さく呟いた。
「先生…?」
「ああ、ありがとう、麗慶。」
 顔を向けて微笑めば、麗慶が嬉しそうに顔を上気させる。
 麗慶は時折子供のようになると、リズヴァーンは思った。
 とても些細なことで、嬉しそうに笑う。
 いつもと違う幼い笑みを、愛らしいと思いながら、リズヴァーンは柔らかな笑みを零した。

 この先も、共にに時を刻んでいくのだろう。

 漠然とそう感じながら、リズヴァーンは車を走らせてた。



written by sou





文 総 2007.01.09日記
懐中時計 加筆修正
素材 かぼんや 様