family christmas



鬼堂邸の玄関のまえで、呼び鈴を鳴らそうとボタンを押した麗慶は、その後すぐに眉を潜めた。
「…先生は、また…」
軽くため息をついて、バックから鍵を取り出す。
ブザーが鳴らなかったのだ。
リズヴァーンは、創作中あるいは現像中は邪魔されたくなくて、呼び鈴の音をわざと切ることもある。
あるいは、ほとんど訪れるものがいないので、切れていても気付かず、あるいは気付いていても放置しているのだ。
リズヴァーンは訪問者が来れば気配で分かるので、呼び鈴が必要ないのである。
そのため、リズヴァーンが自ら玄関に現れることは、年に一度もあるかどうか…。
麗慶は預かっていた鍵でドアを開けると、そのままキッチンへとむかった。
荷物のなかからエプロンを取り出し身につけると、がさがさと食料を並べる。
流しを見れば、食器が少しおいてあった。
今日は食事をしたようだ、と、麗慶は小さく笑った。
集中すると、それに没頭しすぎて食事を忘れることもあるからだ。
食事を抜いても平気でいるから、始末がわるい。
もう少し体のことを考えてほしいと思いながら、麗慶は温野菜のサラダを作り始めた。

「だったら、姉さんが食事の世話をすればいいじゃありませんか。」

「………弁慶。つまらぬ軽口をたたかず、さっさと手伝いなさい。」

思考を読まれたことよりも、音も無く現れた弁慶が後ろでのんびりと見ていることのほうに麗慶は苦情を申し入れた。
「はいはい。僕は何を?」
「そこのチキンにレモンを塗り、そのあと塩コショウを満遍なく擦り込みなさい。」
麗慶に指示されて、弁慶は袖まくりをするとチキンの調理を始めた。
九郎には、来たらすぐにリビングのセッティングをするよう命じてある。(この時点で、すでに主従が逆)
九郎に料理をさせるほど、麗慶も弁慶もおろかではない。
あの、調理実習すらしたことがあるかどうか分からないお坊ちゃまに料理なんぞさせたら、せっかくの食材が無駄になってしまう。
その点では、弁慶も変わらないはずなのだが…
「お前は意外に料理ができますね。」
「姉さんほどではありませんよ。」
「当たり前です。私が何年一人暮らしをしていたと思っているのです。」
すいすいとジャガイモの皮むきをしながら、麗慶が言う。
「いつでも嫁にいけますね。」
「弁慶…おまえはそれほどに私を武蔵から追い出したいのですか?」
相変わらず料理の手を止めずに淡々と言う麗慶に、弁慶が苦笑する。
「とんでもない。僕はただ姉さんに幸せになって欲しいだけですよ。」
麗慶が顔を上げれば、いかにもうそ臭い、弁慶のさわやかな笑顔。
麗慶はそれを一瞥すると、ふん、と鼻で笑った。
「だったらさっさと一人前になりなさい。
お前といい、九郎といい、頼りなくて目を離せません。」
その言葉に、弁慶は再び苦笑した。


「麗慶、弁慶。」
「「リズ先生」」
呼ばれて振り向けば、リズヴァーンがドアのところに立っていた。
「すまぬが、水をもらえるか?」
「はい。」
すぐに動く麗慶に、弁慶は小さく笑った。
「先生、またブザーが鳴りませんでしたよ。」
「ああ、切れているようだな。」
「先生…」
「こちらにくるのはお前たちくらいだ。別段かまわんだろう。」
「…構いますよ。」
水を渡した麗慶とリズヴァーンが会話するのを、弁慶が穏やかな笑顔でみつめる。

いつからか、クリスマスにはこの家に集まるようになった。
いや、クリスマスに限らず、家族で行うような行事には、必ずといってよいほどに。
仕事や、急用が無い限り、自分たち4人はこの家ですごした。
血の繋がったもの達より、名をもらった家よりも、この家のほうが落ち着いた。
この家に集まるものの方が、よほど家族だと思えたから。

本当の家族になる日も、近いのかもしれない。

それが九郎であれ、リズヴァーンであれ、弁慶は構わないと思った。
少なくともこの二人以上に姉を幸せにできるものはいないだろうから。
ただ…
「九郎では、荷が勝ちすぎるでしょうけれど…ね。」
遅れてきた九郎が、麗慶にやり込められているのを見て、弁慶はくすりと笑った。

こちらに来るのは自分たちくらい。
だが、それでも。
合鍵を持っているのは麗慶だけ。
その意味を、いつか問いかけてみたいと思う。
もっとも、あの二人に自覚があるかどうかは、甚だ疑問を感じるが。

姉と、幼馴染と、師と。
本物よりも遙かに愛しくて大切な、偽者の家族。
もう少しだけ、このままで…。





written by sou



文 総 2006.12.24日記
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