mistletoe



パーティーも終わりが近づいたころ、麗慶はふらりと庭に出た。
少し酔いを醒まそうと思ったのもある。
冬の冷気がほてった顔に心地よい。
近くの木の下に立つと、麗慶はそのまま空を見上げた。
ホワイトクリスマスにはならなかったが、代わりに降るような星の光。
目を細めてそれを見つめ、麗慶は小さく微笑んだ。



そろそろ片付けでもしようと考えていたリズヴァーンに、弁慶が話しかけた。
「先生、こちらは僕たちがしますから、姉さんを頼めますか?」
弁慶が庭に出ている麗慶を指差す。
室内着のまま庭にでているので、あのままでは風邪を引いてしまうだろう。
うむ、と立ち上がると、弁慶の笑みが深くなった。
含んだ笑みに何事かと視線を送れば、弁慶はそのまま麗慶の頭上を指した。
弁慶が指差したものを見て、リズヴァーンはため息を漏らした。
苦笑を一つこぼし、そのまま庭へ出る。
「まったく、お前は私をどうしたいのだ?」
呟かれた言葉は、誰に対するものなのか。





「麗慶。」
「先生。」
呼ばれて振り向く麗慶の顔はいまだ赤い。
まだ酔っているようだ。そうでなければ、このような、あどけない笑顔を浮かべたりはしないだろう。
「そのような姿では、冷えるだろう。」
持ってきた上着をかけてやれば、麗慶がにこりと笑った。
「ありがとうございます。お世話をかけました。」
「いや。…星を見ていたのか?」
「はい。」
綺麗ですよね、と麗慶が言う。
「雪が降る夜がホワイトクリスマスなら、星が降る夜はなんというのでしょうね。」
「a bright starry night…星月夜、か。」
リズヴァーンも麗慶の隣で夜空を見上げる。
頭上には、細い月と、一面にちりばめられた星。
少しの間それを見た後、隣の麗慶に視線を送る。

星辰が、ここにも一つ…。

そんなことを考えながら、そっと麗慶の髪に触れた。
「リズ先生…?」
麗慶が不思議そうにリズヴァーンに顔を向ける。
リズヴァーンは微笑して、そっと麗慶に口付けた。

「……………っ!?」

唇に触れるだけのそれは、すぐに離れて行ったけれど、麗慶は動揺のあまり固まり、次いで頬を朱色に染め上げた。
驚きに目を見開く麗慶の頭をゆっくりと撫でると、リズヴァーンが苦笑して、頭上を指差す。
麗慶が見上げると、そこにはヤドリギがあった。
それを見て、麗慶はクリスマスの言い伝えを思い出した。
「…いかなる災いも降りかかってはならない。ただ愛のしるしのキスが降りかかるのみである。」
リズヴァーンが神話の一説を厳かな声で言う。
「Merry Christmas 麗慶。おまえに祝福を。幸福と長寿に恵まれるように。」
「…あ、りがとう、ございます。」


いくつかあるクリスマスのしきたり。
天上から下がっているヤドリギの下に、若い女性がいるのを見かけたら、男性はキスをしなければならない。
ヤドリギの下のキスは、幸福と長寿の予言でもあるという。
ヤドリギの下にいる女性がキスを拒めば、翌年結婚のチャンスがないともいわれている。
だが、恋人同士でするそれは、意味が変わる。

それは、婚約の意思表示。結婚の約束なのだ。

リズヴァーンの言葉から、そんな意味は無いと分かっていても、麗慶は上がる体温を、早鐘のように打つ心臓を止められない。
自分とリズヴァーンは、師弟で、それだけで。家族のように大切に思っているけれど、それだけのはずで。


「さぁ、戻るぞ。このままでは風邪を引いてしまう。」
そっと背を押されて麗慶は歩き出した。部屋に戻るころには、この頬の赤みが消えていることを祈りながら。








 私にキスをください



大きくなったな。

隣に立つ麗慶を見て思ったのは、そんな言葉だった
妙齢の女性に対する言葉としては、ふさわしくないのは承知しているが、出会ったときの印象が強いのだ。
幼いながらも、決意を秘めたその眼差しは、見ていて心地よかった。
必要以上に己を律するその姿に、心打たれた。
家のためといいながら、役目だからといいながら、弁慶を、九郎を守り支えるその姿。

つい、手を差し伸べてしまうのは、その身を案じてしまうのは、女性だからではない。

己に甘えを許さないその姿勢。
決意を貫く意志の強さ。
そして何よりも、その深い愛情。

そのどれもが、心惹かれ、ひきつけられる。

かがまずともその髪に触れ、視線を合わせることができるようになって、ずいぶん経つ。
もう、手を引かなければならない子供ではないのだ。

これで何かが変わるかもしれない。
ずっと何も変わらないかもしれない。

どちらを望んでいるのか分からないまま、ただお前の幸福を祈り、口付ける。
その顔が朱に染まるのを見て、こぼれる笑み。

もう少しは、このままでいるのも悪くない。

そんな思いを込めて、そっと麗慶の背を押した。





written by sou



イラスト sava  文 総 2006.12.26-29日記
mistletoe ヤドリギの下 私にキスをください 加筆修正 

『私にキスをください』はヤドリギの花言葉の一つです。