アメジストの想い
ピンポンとベルが鳴り、麗慶は玄関へ向かう。
先ほど帰った幸が戻ってきたのだろうか。
首をかしげながらドアを開ければ、叱るような声がした。
「無用心だな。相手を確かめてから開けなさい。」
「リズ先生!?」
麗慶が驚きに目を見開く。
リズヴァーンがこのマンションに来ることは滅多にない。
一人暮らしの女性の所へ、男性が出入りするのはよくないと言うのと、仕事以外ではあまり山を降りないためだ。
「どうなさったのですか?」
とにかく上がってくださいと、麗慶がリズヴァーンを招き入れる。
リズヴァーンは辞退しようと思ったが、麗慶が思いのほか嬉しそうに笑うので、素直に上がった。
「誰か来ていたのか?」
部屋の感じから、なんとなく来客があった気配を感じ取り、リズヴァーンが言う。
弁慶や九郎ではないようだ。
「はい…。嫁いだ姉が。」
そういえば、そんな話を聞いた覚えがあると、リズヴァーンは頷いた。
「それで、今日はどうなさったのですか?」
麗慶が不思議そうに言う。
リズヴァーンはお茶を入れている麗慶に、座るように促した。
二度目のお茶は、渋みの少ないダージリン。
カップを置いて自分の向かい側に座る麗慶に、リズヴァーンが苦笑を零す。
これが、今の自分たちの距離なのだ。
ここに九郎と弁慶がいれば、麗慶はリズヴァーンの隣に座る。
けれど、二人だけのときは、隣に座ることは滅多にない。
そう思いながら、リズヴァーンは包みを取り出した。
「これは…?」
不思議に思いながら、麗慶がそれを受け取る。
綺麗にリボンをかけられたそれは、見るからに高級そうだった。
「先月のお返しだ。」
「え?」
リズヴァーンの答えに、麗慶は目をまん丸にした。
「今日は3月14日だろう?」
麗慶の頬が朱色に染まる。
「お返しなど…私もお花を頂いたのですから…」
「本当は誕生日にでも、と思ったのだが、良いものが見つからなくてな。」
「お気持ちだけで、十分ですのに…」
「いいから、受け取ってくれ。私が持っていても仕方の無いものだ。」
再三促されて、麗慶はそっとリボンをはずした。
出てきた品物に、麗慶が言葉をなくす。
15〜16世紀バロックのころの品物だろう。
髪飾りとして金具をつけられたのは、もっとあとの時代だろうが。
厚みのあるアメジストに施された彫刻が、光に透けて壮麗な輝きを放つ。
シンプルなデザインであるがゆえに、宝石に施された彫刻が見事に引き立つ。
種々の花々に囲まれて寄り添う小鳥が、とても愛らしい。
一目見るだけでも、由緒あるアンティークだと分かる。
おそるおそるというように顔を上げる麗慶に、リズヴァーンが小さく笑う。
「お前に似合うと思った。」
麗慶は何かを言おうとして、口つぐむ。
断るのも失礼だが、だからといって気軽に受け取れるものでもない。
「それも、お前に使われたがっているようだ。」
リズヴァーンの言葉を聞き、麗慶が首をかしげた。
「それを手に入れたアンティークショップの店主が言っていた。古いものは、使う人間を選ぶと。
お前への贈り物を探していてそれが出てきたということは、きっとお前のところへ来たかったのだと思う。」
使ってやってくれというリズヴァーンに、麗慶は戸惑いながらも頷いた。
「つけて見せてくれるか?」
リズヴァーンに言われて、麗慶がつけていた髪飾りをはずす。
そっと髪をまとめなおして、アメジストの髪飾りをつけた。
「思ったとおり、お前の髪に良く映える。」
にこりと笑うリズヴァーンに、麗慶は赤い顔のままうつむいた。
期待してしまう。
この人の些細な言動に。
麗慶は複雑な気持ちで、リズヴァーンをそっと見つめた。
『それ以上も、欲しいのでしょう?』
姉の言葉が頭の中に響く。
けれど、この先に進むわけには、いかないのだ。
「景時、嬉しそうだね。」
にこやかに言う白龍に、景時が鼻歌交じりに答えた。
「ん〜、そうだね。いい仕事ができたからね。」
「いい仕事?」
「そう。今度は婚約指輪かな〜。」
「黒龍の?」
「それとは別だよ。」
くすくすと景時が笑う。
アメジスト。
高貴な紫の石。
至福の愛を秘める石。
ヨーロッパでは、新婚に贈る石でもあった。
寄り添うように刻まれたつがいの鳥は、変わらない愛を象徴する。
取り囲む花々は、周囲の祝福を。
幸福な男女に贈られ続けたあの石は、いつしかおせっかいな後押しをするようになった。
この鳥たちの様に寄り添えと、贈る人に、贈られる人に。それを見る人々に。
幸せな夫婦になれと、後押しをする。
だからあの石を手にできるのは、あの石に見合う思いを抱いた人だけ。
「幸せになるといいな。」
「そうだね。」
景時の言葉に、分かっているのかいないのか、白龍がにこりと笑った。
それから一ヶ月と少したったころ。
リズヴァーンは弁慶の訪問を受けた。
おせっかいなアメジストの想いをうけ、リズヴァーンは幸福な悩みを抱えることになる。
written by sou
イラスト sava 文 総
2007.05.23-24日記 アメジストの愛2&3 麗慶さま 加筆修正