旅は終わり、そして始まる。 〜譲子〜
「譲子、春日先輩と海外旅行に行ってきたって噂、本当か?」
「うん。あ、でも誤解するなよ。兄さん達も一緒の家族旅行だったんだから」
「おおお!マジだったか」
「新婚旅行かあ…いいなあ」
「待てっ!人の話を聞け!誰が新婚なんだよ」
「「譲子と春日先輩」」
友人達が声をそろえて答える。
「おまえら〜!!」
「あ、そうか、ごめん。結婚はまだだったね」
「そうそう、入籍は春日先輩が18になってからだったな」
さらにからかう悪友達に譲子が赤くなる。
「いいかげんにしろよっ!」
「あはは、譲子真っ赤」
「可愛いなあ」
友人達は面白そうに譲子にさら問いかける。
「で?先輩の事襲ったか?」
「な、何でそうなるんだよ!」
「あの春日先輩と一緒だったら襲いたくもなるだろ」
「あ、あのな!」
「うんうん。キスくらいしてきたか?」
「いやいや、それくらいじゃないだろう」
「外国だもんな」
「新婚旅行だもんね」
「そんなことするかっ!!人を何だと思ってんだよ…」
「「じゃあ、何にもなかったの?」」
友人達の問いかけに譲子が口ごもる。
「う…」
何もない、わけではなかった。
手をつないで、一緒に歩いた。恋人同士みたいに。
今までそういう事をしなかったのぞみが、自分から譲子の手をとってくれた。
ドイツでの事を思い出した譲子の表情がほわん、と緩む。
「何にも、ってわけでも…ないけど…」
譲子のはにかんだ表情に教室中の皆の目が釘付けになる。
「あの有川があんな顔を…」
譲子は普段きりりとしているのでこのような緩んだ顔は滅多に見れないのだ。
可愛らしい外見にぴったり合った天使の微笑みに皆が思わず見惚れてしまう。
「すげえ可愛い…可愛い可愛い可愛い…」
「ああ、あんな顔するなんて、ついに俺達の譲子ちゃんが…春日先輩と…」
「ああ、私達の春日先輩がついに有川さんと…」
教室中がそれぞれの思いでざわめく。
「先輩…手、つないで…くれた、けど…」
「おお!あの春日先輩が!手を!」
おおお、と教室中がどよめく。
「で?」
「え?」
続きを迫る友人に譲子がきょとん、とする。
「まさかそれで終わりってわけじゃないでしょ?」
「手、つないで、それからどうしたんだよ?焦らすな譲子」
「ううん?それで終わりだけど?」
がくうっ!!
聞き耳を立てていたクラスの全員が脱力した。
「え?何?私何か変な事言ったか?」
教室に漂うおかしな雰囲気に気づいて譲子が首を傾げる。
「いや…」
「非常に春日先輩らしい、なと…」
なんとか体勢を立て直して友人達がこめかみを押さえながらそう言った。
そしてまだ分かっていない様子の譲子の頭をよしよしと撫でる。
「がんばれ、譲子。先は長いぞ」
「うん、やっぱお前が先輩を襲え、な?」
「な、何だよそれ!」
「手をつないだら嬉しかったんだろ?」
「う…うん」
「腕組んだら、もっとうれしいぞ」
「そう…かな」
「肩を抱いてもらったら天にも昇る気持ちだぞ」
「…」
ほわわん
うっかり想像してしまったらしい譲子の顔がふにゃっと緩む。
「ああ、もう、何この可愛い動物!」
「春日先輩の前にお姉さんに抱っこさせてっ!」
その顔に友人達がたまらず譲子を羽交い絞めに抱きしめる。
「手をつないだだけでこんな可愛い表情するのに
それ以上になったらうちのクラスの男子は死ぬな…」
「それでもいいわよ!討ち死上等!
お姉さん達が応援してあげるから、がんばって突き進むのよ!」
一応もうキスはしてるんだけどな、とも言えず譲子は抱きつかれたままもごもごと抵抗した。
「だ〜か〜ら〜…もうっ。何で2人とも保護者になってんだよ!
それに与一!お前いつからお姉キャラになってんだ!」
「やあねえ、男女差別厳禁よ」
「そうよね。与一子ちゃん、貴方もかわいいわ」
女友達が与一の頭も撫でる。
「ありがと。あなたもよ」
与一もお返しとばかりに撫で返す。
「キモいよ!2人ともっ」
「あはは…そういえば今日、春日先輩は休みだって?」
「え、そうなの?」
「あの副会長が生徒会室に顔出さないなんて珍しいからな」
与一は東高生徒会の会計なのだ。
「うん…旅行の疲れが出たみたいで…」
「そうか…つわりか。大変だな」
「与一!!」
「まあまあ。与一もそうからかわないの。じゃあ女子部の方に今日あんた休部って伝えておくね」
「うん…ごめん。ちょっと顔だけは出すから。休んでばかりで皆に迷惑かけてしまうな」
「気にするなよ。譲子、もっと休んでもいいんだ。その間に俺が腕を磨いてお前を追い抜いておくからな」
「与一には元から敵わないってば。あーあ。また引き離されるなあ」
この悪友達も弓道部の仲間なのだ。
「でも、先輩の看病しないといけないから…悪いな」
ほわわん、とどこか幸せそうに言う譲子に友人達が苦笑する。
「まったく、分かってない子だね」
「どこからどう見ても新婚さんだよな…」
いそいそと帰り支度をはじめる譲子を見ながら友人達は溜息をついた。
written by sava
イラスト&文 sava
2007.03.13日記 譲子ちゃん 加筆修正