BITTERSWEET MEMORY



「うら、おきろ、なんじゃくもの。」
のぞむくんのらんぼうもの。
なぐらなくてもいいだろ。
のぞみは目を閉じたまま、頭の中で呟いた。
「のぞむくん、びょうきのこにそんなことしちゃだめだよ。」
のぞみは聞きなれた声に、目を開けた。
聞きなれた、けれど、違う声。
「えっと、こんにちは。わたしゆずる。まさにいちゃんと、ゆずるこのいとこです。」
ふわんと笑う顔は、己の知るそれによく似ていた。
「ゆずる、ちゃん?」
熱でぼうっとする頭。
「うん。よろしくね、のぞみおにいちゃん。」
のぞみおにいちゃんもいとこだよね、と譲が笑う。
とたんに、不機嫌になるのぞむ。
「ゆずるちゃん、なんでこいつがおにいちゃんなんだよ。」
「えっと、いとこでおにいちゃんだから。」
「だめ!」
のぞむが怖い顔で譲に詰め寄る。
「だめなの?」
「だめなの!おれがのぞむだから、こいつはのぞみ!」
ゆずるがこてりと首を傾げれば、のぞむが理不尽なことを言う。
そのときに、なんとなく気付いた。
譲ちゃんはのぞむくんの特別なんだなって。
「おれがおにいちゃんじゃないんだから、こいつをそうよんじゃだめ!」
再びのぞむに言われて、譲は困ったように笑った。
「うん。わかった。のぞみくんで、いいかな?」
後半部分をのぞみに向かって言えば、のぞみがこくんと頷いた。
「これ、おみまい。かぜのときは、ぷりんがいいんだよ。えいよーがあって、たべやすいんだって。」
「それくって、さっさとなおせ。おまえがいないとゆずこがうるさい。」
「…のぞむくん、さっきはゆずるこがしずかできもちわるいっていってた。」
「しずかすぎてうるさいんだ。」
のぞむが憮然とする。
漫談のような二人の会話に、のぞみの口元に笑みが浮かぶ。
「ふん。わらえるようならだいじょうぶだろ。あすにはなおせよ。」
「んとね。あしたみんなでおでかけするの。だから、のぞみくんもがんばってね。」
ちゅ、と譲がのぞみの額に口付ける。
「ゆずるちゃん!!」
「?のぞむくん、どうしたの?」
「それ、やっちゃだめ!!」
「どうして?」
いつものぞむくんにはしてるよ?と譲が不思議そうに言えば、のぞむが真顔で譲に言った。
「それは、おれだけなの!こいつにも、おみにもまさにも、しちゃだめ!」
「そうなの?」
「そう!それするのは、おれのうちだけだろ。だからおれにしかしちゃだめ!」
「うん、わかった。」
何がわかったのかよくわかっていなかったのだが、譲はこくりと頷いた。
「じゃぁね、のぞみくん。あしたはいっしょにあそぼうね。」
「こんじょーでなおせよ。」
譲が手を振り、のぞむは再びごつんとのぞみを小突いて部屋をでた。
「ゆずこをなかせんな。」
去り際にのぞむがぼそりと呟いた言葉が、熱でぼうっとした頭に響いていた。



幼いころの夢を見た。まだ熱が残っていたせいだろうか。
初めて譲ちゃんに会ったときのこと。
自分をお兄ちゃんと呼ぶ譲に怒っていたのぞむ。
あげく訳の分からない理屈を譲に教え込んでいたのぞむ。
「…あれから、ぜんぜん変わってないんだよなぁ…」
のぞみは見舞いに来た二人を見て、ため息をついた。
「あ?何かいったか?」
「べっつに。」
のぞみがそっけなく言えば、のぞむがにやりと笑った。
「おい、キス魔」
のぞむに言われてのぞみは噴出した。
「なっ!」
「将にまでちょっかいかけたって?」
やるじゃねぇか。
のぞむがけらけらと笑う。
「のぞむくん!」
のぞみが真っ赤になって叫べば、譲が入ってきた。
「先輩、病人を興奮させないでくださいよ。」
呆れた声でのぞむをたしなめる。
「はい、のぞみくん。蜂蜜プリン。これくらいなら食べられるでしょ?」
「あ、ありがとう。」
にこりと微笑む譲からプリンを受け取り、のぞみが言う。
のぞみは昔を思い出して小さく笑った。
「はい、先輩も。のぞみくんをからかいすぎないようにしてくださいね。」
譲はのぞむにもプリンを渡すと、のぞむに念を押して再び部屋を出た。
はむはむと二人してプリンを食べる。
昔と同じ味がした。
「むっつりスケベ。」
「万年セクハラに言われたくない。」
「普段ストイックを気取ってるから、簡単に理性が飛ぶんだ。」
「のぞむくんなんか、年中飛ばしているくせに。」
「ハッ。俺はしっかり理性を保っている。」
「それで、あれか?余計に悪いじゃないか。」
「生殺しよりましだろ。」
「寸止めだって似たようなものだ。」
スプーンを口に運びながらも、二人してつらつらと言い合う。

「譲子を泣かせてんじゃねぇよ。」
「譲ちゃんを悲しませてるくせに。」

「「好きなくせに」」

最後は同時に言い合って、二人は口つぐんだ。
冷たくてやわらかくて甘いプリンが、ほんの少しほろ苦かった。





譲子がのぞむを兄さんと呼ぶのに、譲がのぞみを兄さんと呼ばない訳。
のぞむが呼ばせなかったんですね。自分は呼んでもらえないのに、のぞみがそう呼ばれるのが許せなかったんでしょう。
昔っから、こういう関係だったと思います。

06.11.24 総







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