カエルの秘密



じぃっと真剣な眼差しを送る譲。
そんな視線を受け、臣は慎重にボタンを動かした。

ポトン

「よしっ!」
思わず握りこぶしをする二人。
景品受けからぬいぐるみを取り出すと、臣がにっと笑って譲に蛙をさしだした。
「ほら、これでいいんだろ。」
「うん。ありがとう兄さん!」
譲のまぶしい笑顔を受けて、臣はご満悦。
「しっかし、お前が蛙好きとはな。」
しかも、こんなの。
といって臣が譲の手の中の金髪の蛙を見る。
口元には『蛙』の文字の赤い布。下半身(?)にはマントをはおっている。
「んー。いや、可愛いけど…。これは私じゃなくてプレゼントなんだ。」
「プレゼント?」
「そう。」
こくりと頷いて、譲は蛙の人形の髪を整えた。
「生物部の展示の残りで、貰ったから、その御礼。」
「展示?」
「うん。可愛いマントを羽織った蛙。」
は?と首をひねりつつ、まぁ譲がいいなら、いいか、と臣は再びキャッチャーへ向かった。
「あれ?まだやるの?」
「ああ。なんてーか、あのメガネの蛙が気になってな。」
臣がちゃりんとコインを入れる。
「あの角度、かなり難しそうだよ。」
「2回くらい、かかりそうか?」
「そうだね。まずあの黒いマントの蛙をどけて…」


あれこれやっているうちに、一通り取ってしまった臣。
「…………どうするの?」
「あ〜どうしようなぁ。」
臣の顔には苦笑い。
譲の顔には微苦笑が浮かぶ。
とりあえず、袋いっぱいの蛙を抱えて家に帰る二人だった。





「麗慶さん。」
「譲さん、どうしました。」
「あの、これを。」
こっそりと譲が渡したのは紙袋。
不思議に思って麗慶が除けば、件(くだん) の蛙。
「こ…れは。」
「麗慶さん、以前デパートのゲームコーナーで、見ていたでしょう?」
その言葉に、麗慶は動揺した心をポーカーフェイスで押し隠した。
先日、偶然デパートで譲に会った時、お茶でも、と誘いをかけて屋上へといった。
そこにあった蛙になんとなく惹かれて、見つめてしまった覚えはあるが…
まさか、気付かれていたとは。
そんなにも熱心にみていたのだろうか。
「よく、覚えていましたね。」
「文化祭でいただいた蛙に良く似ていたので、思い出したんです。」
あの蛙の御礼です、と譲が言う。
生徒からの贈り物は…と逡巡したものの、最初に贈ったのは自分だし、いまさらかと思い素直に受け取る。
「ありがとうございます、譲さん。大切にしますね。」
そういって微笑めば、嬉しそうに笑う譲。
ぺこりとお辞儀をして立ち去る譲を見送って、麗慶は蛙を抱えたまま理事長室へと入った。
九郎が戻るまでに、今日処理する書類を整える。
そうして時間ができると、麗慶は先ほどの蛙を矯めつ眇めつ見る。

この蛙に惹かれたのは…なんとなく似ていると思ったから。
厳しくも優しく、温かな己の師に。
髪型が似ているというか、きりっとした感じが似ているというか、あの蛙の中で、皆を導いているように見えて…。

人はそれを、恋する乙女の盲目(フィルター) という。

そんなことを思いながら、あれこれみていたら、蛙本体についているタグを見つけた。
どこのメーカーなのかと見てみると、『(C)BENKEI』の文字。


武蔵麗慶26歳。弁慶と姉弟になって25年。弟のことが分からなくなった、初めての瞬間。



written by sou



イラスト sava  文 総 07.02.20書下ろし