あの声で蜥蜴食らうかほととぎす



ず ずずっ ずずずっ

「………敦美…」
「どうかしたのか、ヒノト。」
食事中に、引きつった顔で自分を見るヒノトに、不思議そうに敦美が言う。
「…いや…おいしいか、その蕎麦。」
「ああ。蕎麦は五感で味わうというが、色も香りも味も申し分ない。
音をたててすするのが作法なのは、この食べ物くらいだろうな。」
そういって、再び蕎麦をとり、汁につけるとずずっと一息にすする。
「…………いや、お前がいいなら、いいんだ…」
「? 私は、蕎麦もうどんも好きだぞ?」
「ああ…しってるよ…」

和食党の敦美は、パスタよりもうどんを好み、サンドイッチよりもおにぎり、ショートケーキよりあんみつ、
クッキーよりもせんべい、そして紅茶よりも抹茶を好む。
女学院のティールームには見向きもせず、食堂で素朴な食事を取るのが常だ。
洋食にも慣れているし、嫌いなわけではないのだが、どちらにする?と問われれば、そちらを選ぶ。

「…菫の砂糖漬けみたいな顔をしてるくせに…」
「菫の砂糖漬けよりは、干菓子が良い。砂糖漬けは変に甘すぎて苦手だ。」
食後に蕎麦茶をすすりながら、敦美が言う。
「はぁ…まぁ、本人が気に入るのが一番だけど…さ。」
ヒノトがため息を漏らした。
そんなヒノトの思いに気付きもせずに、敦美が言った。
「そういえば、じきに交流会議だな。」
「ああ。今年もプレゼントが凄まじいだろうな。」
「もらっても使えないものばかりだ。非常に困る。」
「だろうな。」
うんざりして言う敦美に、ヒノトが苦笑した。

何しろ、敦美は綺麗で可愛い。
女学院の制服姿で歩く姿は、アンティークのビスクドールのようだ。
男達は当然のこと、同級生の女子たちまで、そのイメージに合うものばかり贈ってくるものだから、和風趣味の上に実用的な物を好む敦美にはたまったものではない。

可愛くて甘い砂糖菓子やボンボン、それこそ菫の砂糖漬けやハーブティー。
レースのリボンだの、フリルだらけのハンカチだの、中には銀のティースプーンなどを贈る者もいる。
ただ、高価なものは敦美が受け取らないので、アクセサリーを贈るものはいないが。

「砂糖菓子など、一つくらいならともかく、大量にもらっても消費できない。
何より知らないものにもらったものを身に着けることはできない。」
「気持ち悪い、か。」
「ああ。おかしな念を感じることもある。」
ヒノトが言えば、敦美が小さく頷いた。

敦美は平家の斎姫。
ヒノトほどではないが、そういう気配には敏感だ。

「まぁ、いつもどおり他の生徒に回せばいいさ。」
「…よいのだろうか。」
「かまいやしないよ。もともと敦美は受け取らないって言ってあるんだ。
それを、生徒会に差し入れって名目で贈ってくるんだから、うちの生徒のだれが受け取ろうが、勝手だろう?
軍茶利学園にも、先日その旨を通達してきた。」
「そうか…」
こくりと頷いて敦美が言う。
「…ありがとう、ヒノト。世話をかけた。」
「たいした手間でも無いさ。敦美のためなら、喜んで。」
そう言ってヒノトが敦美の髪を一筋救い上げて口付けた。

パシャパシャパシャ

フラッシュの嵐。プラス、シャメの音が鳴り響く。
「………ヒノト…」
「あ、わるい。」
敦美が低い声をだし、ヒノトが苦笑して敦美の髪を手放す。
食堂のあちこちには、二人の寄り添う姿をとって満足そうにため息を漏らす女生徒が多数いた。
「学校では、するなというのに。」
「悪かったって。帰りにあんみつおごるから、機嫌直せ。」
「…玄武堂のスペシャル。」
「了解。」





written by sou



イラスト sava  文 総 2006.12.07,12.10日記
敦姫 あの声で蜥蜴食らうかほととぎす 加筆修正