宣戦布告 



「…母さん達、勝手に盛り上がってますね…」
「う、うん…ええと、向こう、行っておこう、か」
「そ、そうですね」
ぼそぼそと言い合って親達の会話が聞こえない所まで逃げるのぞみと譲子。
「は〜。まいったなあ。うちの母親悪ノリしだすと止まらないからなあ」
「それはうちも同じですよ。ほんとに…事実婚、な、なん、て…」
ぼうっ!
譲子の顔が、火でもでたように真っ赤に染まる。
…当然それはのぞみの顔にも引火する。
「よお、未来の弟よ」
将臣も聞くに堪えないのかこちらへと逃げてきたようだ。
「…将臣くんまでそんな事を」
のぞみが赤い顔で将臣を睨むが、将臣は軽く肩をすくめてさらりとかわす。
「しょうがねだろ、もう家族会議は初孫の名前へと移行してる有様なんだからよ」
「は、は、はつ孫って、」
「もうっ!!私ちょっと止めて来ますっ!」
怒りながら譲子は母たちの暴走を食い止めに戻って行った。
「おお〜勇者だな。…と譲もついにキレてら。はは。あいつらってほんとよく似てるよな」
「…将臣くん、ごめんね」
「ああ?」
「母さんが…無神経なこと言って」
「…ばーか」
将臣はぐしゃぐしゃとのぞみの頭をかきまぜる。
「ああやって大っぴらに言うってのはお前が信頼されてるってことだろーが。そんな事も分からない心の狭い兄じゃねえぞ」
「そういう、ことじゃなくて」
「…あのな。お前、気にしすぎ。だいたいクリスマスに人の目の前でキスまでしておいて今更謝るなっつの」
「うっ、ご、ごめん」
自分の行動を思い返して赤くなるのぞみ。
「…覚悟、決めたみたいじゃねぇか。やっとこさってかんじだけどな」
「…うん」
「俺はお前とは…まあ、なんつーか親友で、幼馴染で、それがさらに義兄弟になれるんだったらこれ以上のことはねぇと思ってる」
「…」
「マジで、そう思ってるからな」
将臣はのぞみに微笑みながらそう言った。

のぞみは将臣と並んで腰掛ける。将臣がその辺から持ってきた酒を二人で飲みながら話す。
「…将臣くん。ボクは逃げないことにしたんだ。自分の気持ちから」
「…ああ」
「だから…色々、変えていこうと思ってる。きちんと一人の男として譲子ちゃんに選んでもらえるように」
「いいじゃねえか。って言っても譲子はもうお前を選んでるけどな」
「だといいんだけど。なにせ一番の身内が一番のライバルだからなあ。…負けるつもりもないけど?」
にっ、とのぞみが将臣に笑う。将臣は驚いた顔をしたが、すぐにまたにっ、とのぞみに笑い返す。
「マジで、変わったじゃねえか」
「でしょ?」
のぞみが将臣のグラスに酒を注ぐ。
ひょい、とその酒を取って今度は将臣がのぞみのグラスを満たす。
かちん、とどちらからともなく乾杯をする。
「うまいな、これ」
「うん」
「簡単にはやらねぇからな」
「くくっ、でたね、本音」
「お前が本気だからな」
「ボクも、負けないよ」
「でも俺のほうが男前だからな」
「それを言うならボクは親公認だからね」
「くっ」
「ふふっ」

「あ〜もうっ!またお酒飲んでますね!駄目じゃないですか」
譲子が親達とのバトルを終えて戻ってきた。

「おっ、いいところに。ほらよっ」
将臣が空のグラスを譲子に渡す。
「え?何だよ兄さん…って、えっ?」
のぞみがとくとくとそのグラスに酒を注ぐ。
「はい、譲子ちゃん、乾杯!」
「って、ちょ、ちょっと待ってください」
「いいから、いいから」
かちん、と3人のグラスがぶつかる。
「…で、これ、何の乾杯なんですか?」
つられて乾杯をしてしまった譲子が2人に聞いた。
「ん?そんなの…なあ?」
「そうそう…ねえ?」
目配せして笑いあうだけで将臣ものぞみも教えてくれない。でも楽しそうな2人の様子に譲子もそれ以上の詮索はしなかった。

3人でいることに変わりはなくても。
すこし今年は変わっていきそうな、新しい年になりそうだった。



written by sava





 新春初バトル 



「か、母さんってば、事実婚ってなんだよっ!」
 譲が赤い顔で呟く。
「本当にね。俺はそんな甲斐性なしじゃないってのに。」
「先輩?」
 のぞむがボソリというので、譲が不思議そうに顔を上げた。
 のぞむは譲を見つめるとにこりと笑った。
「全部すっとばして事実婚、てのも魅力的だけど。
譲ちゃんと結婚するなら、ちゃんとプロポーズして、指輪贈って、とびきりの結婚式して、だよね。」
「そ、そそそそんなっ!」
 いつもよりも甘い笑顔で言われて、譲が真っ赤になる。
「まずは、お付き合いから。」
「せ、先輩っ!?」
「いっただろう?」
 のぞむは譲の左手を取ると、薬指の甲に口付けた。
「ここを予約だって。」
 その言葉に、真っ赤になったまま固まる譲。
 そんな譲を見て、くすりとのぞむが笑う。
 いつになく艶のある笑みに、譲が見惚れて動けない。
 そんな譲にのぞむがキスをすれば、いつもと変わらず殴りかかる臣。
「新年早々、何やってやがる。」
「心機一転、今年の抱負。」
「ざけんな!」
「大真面目。」
「なお悪い!」
「上等!」
 やりあう二人をいつものように、困ったように見る譲。
 いつものように拳を交える二人。
 けれど、どちらもいつもより嬉しそうで。
「言っておくが!」
 パシッとのぞむの掌に拳を叩き込んで臣が言う。
「まだ当分は二人にしてやらねぇからな。」
 にやりと臣が笑う。それを見て、のぞむも笑った。
「ああ。」
 やわらかな笑みで告げられた言葉に、臣は一瞬固まり、そうして笑い出した。
 ガシガシと、のぞむの頭を撫でる。
「おい、やめろっての。」
「ケッ。可愛くない弟に、兄からの愛情表現だ。」
「いらねぇ。」
 ケタケタと笑う二人を、譲は幸せそうに見ていた。

 兄がいて、先輩がいて。今までどおりだけれど、少しずつ何かが変わっていく。
 今日あるいは、あの日から…。

 そんな三人を見つつ、父親たちまで加わって、人の家族計画から、初孫の名前まで話し始めた親たちに、譲が切れるのは、もう間もなく。



written by sou





イラスト sava  文 sava & 総 2007.01.06-07日記
宣戦布告 新春初バトル 加筆修正