狼になりたい?
「よ、おかえり」
「おかえりなさい・・・」
デート(?)からの帰りに西の春日家に寄ったのぞみと譲。
そこにはなぜか譲子がお人形のような格好をさせられて座っていた。
「ゆ、譲子ちゃん、そのカッコは・・・!!」
「わぁ、かわいい。おばさんの新作ですか?」
「そ〜なの!どう?譲子ちゃんだとこのくらいぶりぶりでも可愛いでしょ〜♪」
お使いに行った赤頭きんはおばあさん、もといおばさん(失礼ね!by春日母)に捕まってオモチャにされていましたとさ。
「髪型が違うだけでだいぶイメージが変わるわよねぇ。譲子ちゃん普段からこうやって降ろしていたらいいのに」
「そうだな、確かに柔らかい感じになるよな。いかにも女の子っていうか・・・喋らなければ尚更な」
「うるさい!私はこれが地なんだからしょうがないだろ!」
「いいなあ。譲子は可愛くって」
「譲ちゃんも可愛いよ」
ちゅ。すかさずのぞむが譲の頬にキスをする。
譲はさっきののぞみとの会話を思い出して少しはにかむ。その表情に堪らなくなってまたのぞむが譲にキスをする。
「のぞむ兄!譲にセクハラするなってば!」
「今日一日控えた。もう十分だろ。それにもっと触れてもいいんだろ?」
「そういう事じゃないってさっきも言っただろう!?」
「ほらほら譲子ちゃん。怒ると可愛い顔が台無しよ。こんな阿呆息子はほっときなさい」
「阿呆息子って・・・実の息子に向かってひどいな」
「事実でしょ」
きゃあきゃあと騒ぐ皆の中で一人だけフリーズしたままののぞみ。
「のぞみくん?」
「先輩?」
「おい、ゾミ。お前もなんか言ってやれよ」
にやりとしながらのぞむがのぞみを肘でつついた。
「あ、・・・えと」
「やっぱり・・・似合いません、か?」
譲子が上目遣いでのぞみを見上げる。
譲子ちゃん!その顔、反則!!!(のぞみ脳内絶叫)
「か。可愛い・・・と、思う、よ」
微妙に譲子から視線を外しながらのぞみがようやく言った。
「ありがとうございます・・・あれ、先輩、その髪の毛・・・」
譲子がのぞみのきちんと結われた髪に気づいて言った。
「ああ、これ?さっき譲ちゃんに直してもらったんだ」
「譲に・・・?そう、ですか・・・」
のぞみはこう見えて人に触られるのを嫌う。べたべたとされるのが苦手で、集団からふいに外れていなくなる事も多いのだ。
のぞみを探しに行くのは譲子の役目で、そんな時はたいてい木陰や風通しのいい屋上などで昼寝していたりする。
兄の将臣はいつかそんなのぞみの事を「アイツは懐かない猫みたいだ」と苦笑して言っていた。
髪の毛もいつも自分で適当に結んでいる。
毛づくろいが苦手な猫だな、と譲子はいつも可笑しく思っていて
一度だけのぞみに頼み込んで髪を結わせてもらった時があった。
でもその時には少し困ったような顔をされてしまった。
それ以来のぞみの髪には触れていない。
『私には絶対やらせてくれないのに、な・・・』
今だって自分と目を合わせようとしてくれない。
『やっぱり、私じゃ駄目なのかな』
しゅん・・・と譲子がみるみるしおれていった。
ぼかっ
「あいたっ!」
のぞむがのぞみの頭を思いきり引っぱたいた・・・
はずだったがその前にのぞむ母の鉄拳がのぞみの頭を直撃していた。
「か、母さん」
「叔母さん・・・」
「のぞみ君!そういう態度は駄目!!」
「え、ええっ」
「女の子はきちんと誉めてあげなきゃ駄目!お水を上げないと花は枯れるでしょ。それと同じ。
きちんと言葉にしないと女の子も枯れちゃうのよ!ほら!ちゃんと譲子ちゃんに言って上げて!」
「あ・・・」
のぞみがはっとして譲子を見ると赤い顔でしょんぼりとうつむいてしまっている。
「おばさん・・・いいんです。やっぱり私にはこういうの似合わないって分かっていたんだけど」
「譲子ちゃん」
「着替えてきます!」
きびすを返して立ち去ろうとした譲子の手をのぞみが捕まえる。
「離して下さい・・・」
「嫌だ。こっちむいて」
「だって・・・こんな格好して一人で浮かれて莫迦みたいで」
「そんな事無い。・・・ごめん。すごく似合ってる。びっくりしたんだ」
「ほんと、です、か・・・?」
おずおずと譲子がのぞみの方に身体を向ける。
「うん。まともに目をあわせられないくらい可愛い。すごく可愛い。世界で一番可愛い。ありえないくらい可愛い。ええとあと、た・・・」
『食べちゃいたいくらい可愛い』
自分で浮かんだ言葉に再びフリーズするのぞみ。
「うーん。まあのぞみ君じゃこんなものかな。どう?譲子ちゃん」
のぞむ母が譲子に聞く。
「も・・・もう、先輩ったら・・・わ、分かりました、もう、いいです」
くすくす、と譲子が耐え切れずに笑い出す。
「そ、そう・・・ならいいんだけど」
どぎまぎしながらのぞみが言う。
「先輩・・・えと」
「ん?」
「その・・・手、が」
繋がれたままの手。
「どうしよう・・・」
「え?」
「離したくない」
「え、ええええええ!?」
「やった!!それよ!のぞみ君!」
「おいおい」
「ええっ!のぞみくんがっ!!」
皆の嬌声に、は、と我に返るのぞみ。とたんにかあああっと首筋まで真っ赤に染まってぱっと手を離す。
「ご、ごめん!変な事言って」
「い、いいえ。・・・うれしい、です」
譲子の消えそうな小声でささやかれた言葉に、のぞみ三たびフリーズ。
「はーい。それじゃのぞみ君、譲子ちゃんを送って帰ってね〜。あ、服はそのままでいいから。
譲子ちゃんの着てきた服は今包んであげるから♪」
「え、えええっ、それは・・・!」
「おばさん!いえ、私着替えて帰ります!」
「「だ〜〜〜め!!」」
春日親子に止められる譲子。
「じゃせめて眼鏡だけでも・・・」
「「だ〜〜め!!」」
春日親子妨害ふたたび。
「ゾミが手を引いて帰ってあげればいいだろ。離したくないって本人の希望もあることだし」
「のぞむ君!それはっ!」
「そうよ〜この可愛い格好で町を歩いてもらったらウチの宣伝にもなるしね〜♪」
「でもこんな格好じゃさすが寒いです!」
「あ、コートも貸したげる♪これも新作よん」
「譲子もあきらめなよ。あの2人が束になったら敵う相手はいないから」
「譲〜〜」
譲がそっと耳打ちする。
「あああ。何て言うんだっけ・・・ああいうの。蛙の面に水?馬耳東風?」
「違うよ。棚からぼた餅、だろ。良かったじゃないか譲子」
「・・・うん・・・」
ぽっと赤くなる譲子を見て譲は苦笑する。
(これじゃのぞみくん帰り道が大変だろうなあ・・・)
「ああ、あとこれ今日のお土産。一日のぞみくん借りちゃったお礼。ヘアゴムなんだけど」
譲がちいさな包みを渡す。
「ありがとう」
「明日はこれつけて学校行ってね」
「?うん。そうする」
(のぞみくんとお揃いだから)と譲が心の中でこっそり言う。
「じゃあ帰ろう、か」
「は、はい」
「くくっ。ゾミの奴どこまで辛抱できるかな」
「キスくらいすればめっけもんよね。のぞみ君だし」
「いや。男はみんな狼だから。どうかな」
「ふふ。そうね、赤頭きんちゃんは狼さんに食べられちゃうのよね〜」
東町へ帰る2人の後姿を見送りながら春日親子が楽しそうに話していた。
「先輩もおばさんも、からかいすぎですよ」
「ううん?昔話には含蓄があるってことだってば。じゃ譲ちゃんは俺が送ってあげるからね♪」
「え、ええっ隣ですし大丈夫です。一人で帰れます」
「・・・そういえば送り狼がここにもいたわね」
「駄ー目。女の子の一人歩きは危ないから」
「おう。そうだな。というわけで、帰るぞ、譲」
いつの間にか将臣が譲の隣に立っていた。
「兄さん」
ちっと舌打ちをするのぞむ。
「遅いからたぶんここで捕まってると思って迎えに来たぜ。じゃあ帰ろうか」
「おい、待てよ。こっちは今日一日お預け食ってんだ。帰りぐらい送らせろ!」
「うるさい狼。お前に食わせるような妹はいねえ!じゃ、おばさん、失礼します」
ぺこりと頭を下げて将臣が譲の手を引いてすたすたと去っていく。
「あ、先輩、おばさん、さ、さようなら。待ってよ兄さん」
譲も自宅へと帰っていった。
とり残されたのぞむにはバタン!という威勢のいいドアを閉める音がおまけとして響いた。
「くっそ〜〜〜〜」
「はいはい。狼になり損ねたわね。でも良かったじゃない?」
「どこがだよ」
「ふふん。赤頭きんちゃんの昔話よ。ほら、赤頭きんを食べた狼はその後どうなるんだっけ?」
「・・・猟師に腹裂かれる」
「ほら、ね♪譲子ちゃんにも猟師さんが一人ついているからね〜。狼も気をつけないといけないわね」
「向こうは真剣勝負だからな」
「そうそう。やっぱり昔話って含蓄があるわね〜」
さて、赤頭きんちゃんは誰のもの?
written by sava
東の有川家
いろんな意味で何事も無く家に帰った譲子をみて、将が眼を見開いた。
「譲子?どうしたんだよ、そのかっこう。」
「のぞむ兄さんのおばさんにやられた。」
「…ああ。」
その一言で全てが納得できてしまう。恐るべし、のぞむ母!
「…どうせ、似合わないだろ。」
さっきからじろじろと見る兄にぼそりと言えば、将がにっと笑った。
「いいや、似合いすぎてて閉じ込めちまいたいくらいだぜ?」
「……兄さん。気色悪い冗談いうなよ。」
「あっはっは。」
まるっきり冗談ってわけでもねぇんだがな。
将は心のなかで呟いた。
「ま、外には着てかないほうがいいな。」
兄の言葉に譲子が怪訝そうに顔を上げれば、ぐりぐりと頭をなでられた。
「変なヤツがよってきそうで、気が気じゃない。」
「そんな物好き、そうそういるかよ。」
譲子があきれていった。
こいつ、そういう意味での自覚の無さは、譲といい勝負だっけ。
将は秘かにため息をついた。
written by sou
イラスト sava 文 sava & 総 2006.11.15日記
狼になりたい? 赤頭きんちゃん気をつけて 狼さんも気をつけて? おまけ 加筆修正