今年の春、高校の合格発表で受かって喜ぶ譲子。
「よかったな譲子」
「これで兄さん達と同じ高校に行けるよ」
「・・・のぞみと一緒の高校、の間違いだろ」
「もうっ!」
贅沢な不幸
「あー疲れた。ただいまっと」
バイトを終えて家に帰ってきた将臣。
家は電気が消え、しんと静まりかえっている。
「皆寝ちまったのか・・・ま、無理もねえな。この時間だし」
腕時計を見ながら将臣がつぶやく。時計の針は深夜を指している。
今日はバイト先のカフェが結婚式の2次会の会場として使われた為、片付けまで手伝って帰りがかなり遅くなってしまったのだ。
「腹減ったな・・・カップラーメンでも食うか」
空腹を覚えて将臣が台所をごそごそとあさっていると突然リビングの電気がぱっと点いた。
「兄さん、おかえり。・・・何やってんだよ」
「お、譲子、悪ぃ。起こしちまったか」
「いや、寝てたわけじゃないから。・・・何だよ夕飯まだなのか?」
「今日は忙しくて食いはぐれちまったんだよ。ほら、2次会が入っててよ」
「そうか、お疲れさま・・・何か作ろうか?」
「サンキュ。助かるぜ。わが最愛の妹よ」
やめろ、気持ち悪い、と言いながらも譲子は台所で支度を始めた。
「・・・軽いものでいいだろう?この時間だし」
「ああ。まかせる」
ひとまず着替えてこようと思い、自分の部屋へ行こうとした将臣の背中に譲子の声がかかる。
「風呂、沸いてるから先に入れよ。その間に何か作っておくから」
「そうか?じゃそうするかな・・・」
トントントン・・・と包丁の軽やかな音が静かな部屋に響く。
実際よくできた妹だよな。
風呂に向かいながら将臣は思う。
風呂場にはきちんとタオルが用意されていて譲子が将臣の帰りを待っていたのが分かる。
気立てが良くて、しっかりもの。
さりげない気配りもできる。でも自分の意見はしっかりと通す。
・・・まったく
今までに何人かと付き合ったこともある。皆、それなりにいい女だったと思う。
でも、どうしても譲子と比べてしまう。
譲子ならここで笑わない。譲子ならここで我慢しない。
譲子ならここで俺の言葉を疑わない。譲子ならここで怒る。
「譲子なら」
それがいつの間にか将臣の基本条件になってしまっている。
『・・・有川君は理想が高すぎるんだと思う』
『時々、遠い目で見るよね。私じゃない誰かを見てるのかなって、いつも思ってた』
別れ際に女達に言われた台詞。
・・・俺も困ったもんだよな。
「あーすっきりした。いい風呂だったぜ」
「兄さん、パンツ1丁はやめろ。また風邪ひくぞ」
「へいへいっと。お、うどんか」
将臣が風呂から上がってくると、テーブルにはほかほかと湯気をたてて美味しそうなうどんが用意されていた。
「・・・こんなものくらいしかできなくてごめん。
まさか兄さんが食事してこないなんて思ってなくて夕飯取っておかなかったんだ」
「いや、これで十分。サンキュ・・・っと、あ、そうだ。これ、やるわ」
「何これ?」
ことん、とテーブルの上におかれたのは、小さな菓子が入った可愛らしい包み。
「今日、ほらカフェが結婚式の2次会だったって言ったろ。それで何でだか俺達にもこれくれてよ、どら・・なんとか」
「ドラジェ、だろ。・・・かわいい」
ふわ、と譲子が笑う。その笑顔が今日の主賓の花嫁に重なる。
「・・・お前が嫁に行くときは俺が「妹よ」を熱唱してやるからな」
うどんを啜りながら将臣が言う。
「たのむからそれだけはやめてくれ」
苦虫を噛み潰したような顔で譲子が答える。
「ま、お前が嫁に行くったって、どうせ隣だろ」
将臣の言った意味を理解して、譲子がぽっと頬を染める。
「・・・莫迦・・・」
ああ、まったく。
可愛い妹がいるってのも、困ったもんだ。
written by sava
イラスト & 文 sava 2006.11.26-27日記
将臣強化習慣 贅沢な不幸 加筆修正