アメジストの贈り物



 そこに足が向かったのは、本当に偶然だった。

「いらっしゃいませ。」
 カラン…と音をたててドアベルが鳴る。
 店の中はアンティークショップ独特の、時の流れが止まったような空気が満ちていた。
「何かお求めですか?」
 にこりと笑ったのは、まだ若い、人のよさそうな店主。
「いや…」
 何をと問いかけられ、特に決めていたわけではなかったリズヴァーンは返事に詰まる。
「贈り物ですか?」
「ああ。」
 こくりと頷くリズヴァーンに景時が微笑んだ。
「あなたがここにいらしたと言うことは、この中の誰かが呼んだのかもしれません。
人に選ばれ続けた古いものは、自分もまた所有者を選ぶ。
どうぞ、ごゆっくりご覧ください。」
 穏やかな笑顔で、不思議な言葉を告げる店主。
 けれど怪しさは感じられず、この店の柔らかな空気そのままの雰囲気で。
 リズヴァーンは、言われるままにゆっくりと見て回る。
 店構えからは想像できぬほど、この店は広かった。
 人に選ばれ続けたアンティーク。
 その名に相応しく、どの品物も美しく、愛らしいが、これというものが見つからない
 ビクトリア調のネックレスも、レースの小物入れも、ビスクドールも、どれも麗慶ならば似合うだろうが、それを送るという気にはならなかった。
 なまじ、あの少女−もう立派な女性なのだが、リズヴァーンにとっては未だに少女の容貌で瞳に映る−は、何を渡しても嬉しそうに微笑むものだから、何が好ましいのか、判ずるのが難い。
 彼女に似合うもの、という意味でなら、目の前にあるガーネットのブレスレットでも似合うのだが…
 それでもプレゼントしようとは何故か思えず、無駄足だったかと思い溜め息を零したとき、視界の片隅に紫色が目に入った。

「…アメジストか…」

 手にとって見ると、それは紫水晶で作られた、楕円形の髪飾りだった。
 大振りであるがゆえに色目は薄いが、色の濃さは均一。
 何よりもそのアメジストに施された透かし彫りのインタリオが見事だった。
 花に囲まれて、可愛らしい小鳥が二羽寄り添っている。

 麗慶は仕事がら髪をまとめていることが多い。
 これならば落ち着いた色合いだし、デザインも派手すぎることもない。

 陽に透けて輝くアメジストは、麗慶の金色の髪に映えるだろう。

 そう思いながら、髪飾りをゆっくりと検分したあと、リズヴァーンは景時を呼んだ。
「これを、もらえるか?」
「これはまた…」
「どうかしたのか?」
「いえ…よいものを見つけられましたね。」
 にこりと微笑んで、景時が言った。
「ただ、お値段のほうも、それなりになりますが…」
 申し訳なさそうに言う景時に、リズヴァーンが笑う。
「構わない。包んでもらえるか?」
「はい。贈り物の包装でよろしいですか?」
「頼む。」


 時は3月中旬。
 ホワイトデー目前のできごと。





written by sou



文 総 
2007.05.23日記 アメジストの愛 加筆修正 

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